『星の唄が聞こえる』、生成AI長編アニメがYouTubeで無料公開 結野弘崇監督ら3人で制作

時間がない人向けの30秒で理解ゾーン
映像を全面的に生成AIで作った長編アニメ映画『星の唄が聞こえる』が、10月22日にYouTubeで無料公開された。上映時間は117分。監督の結野弘崇を含む3人のチームが、実働約3か月で約1500カットを仕上げた。熊本・阿蘇を舞台に、成果でしか自分を測れなくなった起業家が心を取り戻すまでを描く。
117分の本編を「アニメの日」に公開
制作したのは、株式会社SPEED EFFECT(東京都渋谷区)の屋号「DELINE PRIME」だ。同社は10月22日にプレスリリースを出し、本編フル動画の公開を発表した。
本編はDELINE PRIMEの公式YouTubeチャンネルに「【AI制作アニメ】『星の唄が聞こえる (全編)』」の題で上がっている。公開時刻は日本時間10月22日午前10時ごろで、動画の長さは1時間57分48秒。2時間近い尺を、1本の動画で通して見られる。
10月22日は、日本初のカラー長編アニメーション映画『白蛇伝』が1958年に公開された日にちなむ「アニメの日」。日本動画協会のアニメ100周年記念事業「アニメNEXT_100」が定め、2017年に日本記念日協会の認定を受けた記念日だ。本作はこの日に合わせて本編を出した。
公開までには段階があった。リリースによると、10月5日から章ごとの動画を順に出し、最後に全編をまとめて公開したという。チャンネルには10月12日の「第二章(銀河の誕生)」、10月19日の「最終章(トワに続く唄)」のほか、予告編や1分以内の切り抜き動画も並ぶ。
作品は公開設定の通常の動画で、誰でも無料で視聴できる。制作側は「利益追求を目的としておらず、技術力の共有として無料公開しつづける予定」と説明しており、公開期間の終わりは示していない。全編動画の再生回数は、10月23日午前5時20分ごろの時点で約1950回だった。
起業家が阿蘇の丘で取り戻すもの
物語の主人公は、SNSマーケティング企業を立ち上げた起業家の篠宮礼。幼いころに両親を亡くし、成果を出すことでしか自分の価値を感じられないまま大人になった人物だ。他人の気持ちには敏感なのに、自分の心の声だけが聞こえない。
幼い礼は祖父に連れられ、阿蘇の「願いが叶う丘」に登る。ブリキのバケツに映った満天の星空を胸に上京し、事業を大きくしていく。だが成果を追うほど心は乾き、親友との死別や裏切り、家族とのすれ違いが重なる。すべてを失いかけた礼は再びあの丘へ戻り、祖父と交わした小さな約束を思い出す。
作品は結野監督自身の起業家としての経験を下敷きにしたオリジナルフィクションだ。背景の作画では、熊本県南小国町にある巨石の点在する草原、押戸石の丘を実際に撮影し、天体の位置にもこだわったとしている。制作にはNPO法人押戸石の丘も協力した。
声の出演は、大人の礼を桜井颯斗、子ども時代の礼をりお、老いた礼を矢嶋友和が担当した。宮守沙也加と大人のひかりを高本いおり、和希を田中運動部が演じ、礼の祖父「じいじ」と西村の2役は結野監督が自ら務めている。
3人・約1500カット・1万回超の試行
制作チームは3人だった。結野監督が原作、脚本、監督、コンテ、音楽、背景、キャラクターデザイン、効果音、編集を一手に担い、堀川翔悟と常井秀人が動画制作と効果音を受け持った。協力には株式会社ジェー・ピー・シー、アミューズメントメディア総合学院も名を連ねる。
制作は2026年4月に始まった。経営資源を集中させるため一度止まり、8月に再開して10月に完成したという。約1500のカットそれぞれで平均5回以上作り直し、試行は合計で1万回を超えた。
使ったAIは用途ごとに分かれる。映像は「Seedance」「MiniMax」、画像は「ChatGPT image」「Nano Banana」「Midjourney」、音楽は「Suno」。一方で、主要キャストには実際の声優を起用し、AI音声は一部にとどめている。
生成にかかったコストについて、監督は一般的なアニメ映画の10分の1程度と説明した。作業の手順がはっきりしたので、今後はさらに下げられるという。
なぜ長編にこだわったのか。
監督のコメントによると、最近のAIアニメは背景や構図、人物の破綻、感情のつながりを保つ難しさから、ショートアニメやミュージックビデオ程度の尺が主流だという。本作はその壁を長尺で越えた、業界で初めての試みだと位置づける。なお、リリースが掲げる「史上初の2時間尺」は、制作会社による自社調べに基づく。国内外で公開された長編のうち、映像の全カットを生成AIで作り、日本のアニメ調の2D表現で、上映時間100分以上という条件に当てはまる先行作品は見つからなかったとしている。
映像制作歴1年、初監督の経営者
結野弘崇は監督名で、本名は今井渉平。2023年9月に設立されたSPEED EFFECTの代表取締役を務める。同社はWEBマーケティングやアフィリエイト広告を手がけ、AI動画制作も事業に加えている。
監督にとって本作は初監督・初脚本で、映像制作の経験は約1年。声優としても出演した。公開に寄せたコメントでは「未熟な点も多々お見受けされてしまうかと存じますが、無事作品として公開できたことを嬉しく思います」とつづった。
生成AIと権利をめぐる議論の中で
生成AIを使ったアニメや声には、業界から懸念が出ている。日本俳優連合は10月15日、AIでの学習・生成・利用のそれぞれで、実演家本人の書面による事前同意を求める「音声に関する生成AI利用ガイドライン」を公表した。
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結野監督もこうした批判を意識している。コメントでは、AIを「コスパの良いツール」や「技術の盗用」として扱うのではなく、「創造性を拡張する相棒」として使ったと強調した。プロンプトや参考資料に既存のアニメ作品は直接取り込んでおらず、作詞や脚本、プロンプトはすべて手で打ち込んだと説明している。一方で、背景の情景美は新海誠作品を参考にしたともリリースに書いている。
「人間が感動するものは人間しか作れない」。メインキャストに本物の声を使った理由を、監督はこの言葉で示した。今後は過去のアニメーターや漫画家の努力と文化を尊重しながら、戦闘シーンやラブストーリー、子ども向けの作品、オリジナルアニメの受託制作にも取り組みたいとしている。
117分の作品は、10月23日時点で誰でもYouTubeで見られる。
[文/構成 by エンタメライター 和泉ユウスケ]











































































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