山口尚秀、アジアパラ競技大会の100m平泳ぎで金メダル 今治市出身、知的障害クラスで頂点

時間がない人向けの30秒で理解ゾーン
愛知・名古屋2026アジアパラ競技大会の競泳男子100m平泳ぎ(知的障害SB14)で、愛媛県今治市出身の山口尚秀(25)=四国ガス=が10月21日、1分2秒53の大会新記録で金メダルを手にした。2位とは4秒86差。杭州大会に続く2大会連続の優勝となった。
予選と決勝で大会記録を2度更新
第5回となるアジアパラ競技大会は10月18日に開幕し、24日まで愛知県と名古屋市を中心に開かれている。パラ水泳の会場は名古屋市総合体育館(レインボープール)で、男子100m平泳ぎSB14の予選と決勝は10月21日に行われた。午前の予選で山口は1分2秒85を出し、杭州大会で自身が作った大会記録1分3秒82を一気に1秒近く縮めてトップ通過。予選2位の選手は1分8秒35で、この時点で5秒以上の差があった。夜の決勝でもう一度その数字を塗り替えた。決勝には日本から山口を含む3人が進んだ。
決勝は真ん中の4レーンからのスタートだった。前半50mを29秒53で折り返すと、後半も33秒00でまとめ、1分2秒53でフィニッシュ。予選より前半で0秒05、後半で0秒27速く、後半の伸びがタイム短縮につながった。2位のタイの選手は1分7秒39、3位の香港の選手は1分9秒96で、表彰台の3人の間にも大きな差がついた。
同じ日の決勝では、女子100m平泳ぎ(SB14)でも木下あいらが1分16秒42のアジア新記録で優勝し、日本勢が表彰台を独占した。知的障害クラスの平泳ぎは、男女そろって日本が金メダルを手にした。
| 順位 | 選手(国・地域) | 記録 |
|---|---|---|
| 1位(金) | 山口尚秀(日本) | 1分2秒53(大会新) |
| 2位(銀) | タイの選手 | 1分7秒39 |
| 3位(銅) | 香港の選手 | 1分9秒96 |
※大会公式リザルト(10月21日決勝)による。
一方で、世界記録には届かなかった。この種目の世界記録は山口自身が2026年8月29日、米カリフォルニア州で開かれたパラパンパシフィック水泳選手権で出した1分2秒38。その差は0秒15だった。
山口はこの種目で世界記録を何度も塗り替えてきた。2025年4月の富士・静岡でのワールドシリーズで1分2秒64を出し、同じ年の8月に1分2秒53へ短縮。2026年8月の1分2秒38は、その記録を約1年ぶりに0秒15縮めたものだった。名古屋の決勝で出した1分2秒53は、1年前の世界記録と同じタイムになる。
世界記録を狙った2日間
予選の直後、山口の口から出たのは記録への意欲だった。「前半からしっかり力を出していけた方だと思うので、決勝ではもっとハイペースな泳ぎを出していきたいと思います。(世界記録を)大幅に更新していきたいと思います」。決勝では前半50mを予選より0秒05速い29秒53で入ったが、世界記録の更新には届かなかった。
大会前から狙いははっきりしていた。10月12日に東京都北区の味の素ナショナルトレーニングセンターで行われた代表の練習公開では、アジア大会の男子200m平泳ぎで世界新記録を出した大橋信(枚方SS)の泳ぎに刺激を受けたと明かし、「次はパラの番という気持ちになっている」と話していた。
今治で水に親しんだ少年が世界の頂点へ
山口は2000年10月28日、愛媛県今治市生まれ。3歳のときに知的障害を伴う自閉症と診断された。幼いころは祖父母と一緒に歩行浴へ通って水に慣れ、小学4年からスイミングスクールに通い始める。最初は週1日の障害児コースだった。
転機は2016年、岩手で開かれた全国障害者スポーツ大会への出場だった。高校1年の冬から選手コースで週6日の練習を始め、その後はコーチの異動に合わせて瀬戸内温泉スイミングへ移る。現在は四国ガスに所属して競技を続けている。
結果はすぐについてきた。2019年の世界パラ水泳選手権(英国)で100m平泳ぎを世界新記録で制すと、2021年の東京パラリンピックでも世界記録を更新して金メダル。2022年のマデイラ(ポルトガル)、2023年のマンチェスター(英国)の世界選手権でも100m平泳ぎを制した。2024年のパリ大会は銅メダルだったが、2025年のシンガポール世界選手権で再び世界の頂点に立ち、この種目で4度目の世界選手権優勝を果たした。
アジアパラでは、2023年10月に開かれた杭州大会で100m背泳ぎ、100m平泳ぎ、200m個人メドレー、混合400mフリーリレーの4種目を制している。名古屋はアジアパラ2度目の出場で、平泳ぎは2連覇となった。
地元の愛媛でも、今治市出身の金メダルは県内のテレビ局や新聞が相次いで伝えた。同じ10月21日には、陸上男子100m(視覚障害T12)で松山市出身の石山大輝が10秒92で銀メダルを手にしており、愛媛ゆかりの選手が名古屋で続けて表彰台に上がった。
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知的障害クラス「S14」とは
パラ水泳は障害の種類や程度でクラスを分ける。クラス名の数字14は知的障害の選手のクラスを示し、平泳ぎは「SB14」、自由形・背泳ぎ・バタフライは「S14」、個人メドレーは「SM14」と表記する。山口はこの3つのクラスで登録している。
身体の障害に応じて細かく分かれるほかのクラスと違い、知的障害は1クラスにまとまる。山口は決勝のスタートでも反応よく飛び出し、リアクションタイム0秒62は出場8人のなかで最速タイだった。
リレーでもアジア新、残るは200m個人メドレー
名古屋での山口は平泳ぎだけでは終わらなかった。10月22日の混合400mフリーリレー(知的障害S14)では、日本がアジア新記録と大会新記録の3分50秒02で優勝。山口はアンカーを務め、木下あいらら4人で金メダルを分け合った。これまでのアジア記録は2025年4月に香港が出した3分52秒53で、一気に2秒51更新した。山口にとっては今大会2個目の金メダルになる。
個人種目では、10月19日の200m自由形が1分59秒56で5位、10月20日の100m背泳ぎが1分2秒22で4位だった。背泳ぎはフィリピンの選手が1分1秒56で制し、山口は3位と0秒14差でメダルを逃した。杭州大会で勝った種目の連覇はならず、翌日の本命・平泳ぎに臨んだ。
残るのは10月23日の200m個人メドレー(SM14)。午前に予選、夜に決勝が予定されている。杭州大会で勝った種目で、山口にとっては今大会3個目の金メダルがかかる。
平泳ぎの世界記録更新は持ち越しになった。それでも、予選と決勝で大会記録を2度書き換え、2位に5秒近い差をつけた。祖父母と通った歩行浴から始まった今治出身の25歳は、日本開催のアジアパラでも頂点を守った。
[文/構成 by スポーツライター 南條楓]
















































































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