国民年金「第3号」の縮小議論、「2030年に支給停止」は検討会資料になし 廃止はいつから、決まったことと未定のこと、扶養内パートへの影響を整理

時間がない人向けの30秒で理解ゾーン
Xで「2030年に支給停止」という投稿が広がった国民年金の第3号被保険者。厚生労働省の検討会の資料や議事録に、その記述はない。2030年は次の年金法改正が予定される年で、政府は第3号の見直しについて、それまでに結論を得るとしている。廃止の有無は決まっていない。
Xで広がった「2030年に支給停止」、何があったのか
発端は2026年11月2日にXへ投稿された短い文章だった。「専業主婦は年金を払ってなかったから年金の支給を廃止します。2030年に支給停止します」と書き、高市早苗首相の名前を挙げて批判する内容で、11月3日朝の時点で表示回数は385万回に達した。同じ投稿を引用する形で、批判と訂正の両方が続いている。
投稿に付いた動画には「厚労省 国民年金『第3号』縮小に向け検討開始」の文字が出ている。日テレNEWSがほぼ同じ見出しで公開している動画は2026年9月4日の放送分で、約2カ月前のニュースにあたる。説明文に書かれているのは、保険料の負担がない第3号被保険者の縮小に向けて、厚生労働省が検討を始めたという内容だ。
その検討の場が、厚労省の「国民年金第3号被保険者制度等に関する検討会」。第1回は2026年9月4日に開かれ、議題は座長の選出、制度の現状、実態調査の3つだった。公開された資料と議事録に、2030年に年金の支給を止めるという記述はない。
議事録で委員が口にする「廃止」は、第3号という制度の扱いを指す言葉として使われている。第3号の人が受け取る年金の支給をやめるよう求める発言は確認できなかった。
廃止はいつから 決まった日付はなく、2030年は次の年金法改正の予定年
第3号の廃止や縮小が始まる日付は、2026年11月3日時点で決まっていない。
では、2030年はどこから来たのか。時事通信は検討会の初会合を伝える記事で「2030年の次期年金制度改正への反映を目指す」と報じ、共同通信も「2030年の次期年金制度改正で実現を目指す」と書いた。政府の文書にも時期の枠はある。2026年8月5日に閣議決定した「給付付き税額控除」の制度導入の基本方針は、第3号の見直しと被用者保険の適用拡大の加速について「次期年金法改正までに結論を得る」と記し、次期年金法改正は「令和12年」(2030年)に予定されていると書いている。いずれも次の制度改正に向けた時期の話で、支給を止める期限ではない。確認した法律と閣議決定、検討会の資料に、2030年に支給を止めるという記述はない。
検討会の日程で示されているのは、もっと手前の段階だ。厚労省年金局年金課の企画官は第1回で、「令和8年度中に課題の整理を行いまして、その後、令和9年度もそれまでの議論を踏まえたさらなる検討を行う」と説明した。2027年度も検討が続く予定で、制度案はまだ出ていない。
上野厚生労働相も9月4日の記者会見で「まずは実態把握をしっかりしていくことが必要だと考えています」と述べ、「丁寧な議論を積み重ねていきたいと考えています」と続けた。
決まっていることと決まっていないこと
ここまでの資料と報道で確認できる内容を並べると、次のようになる。
| 決まっていること | 決まっていないこと |
|---|---|
| 検討会が第1回を開催 | 第3号を廃止するかどうか |
| 約2万人にアンケート | 縮小の対象と線引き |
| 調査結果は今年度中にまとめる | 見直しが始まる時期 |
| 2027年度も検討する予定 | 新たな保険料負担の有無 |
| 賃金の要件は2026年10月に撤廃 | 過去の第3号期間の扱い |
| 勤め先の規模要件の縮小日程 | 育児や介護への配慮の形 |
右の列の項目は、いずれも検討会で結論が出ていない。時事通信は政府・与党の方針を「3号制度の対象者を絞り込んだ上で存続させる」と伝える一方、検討会では委員から廃止を求める発言も出た。
第3号被保険者とは 保険料を負担しない仕組みの中身
第3号被保険者は、会社員や公務員など厚生年金に入っている人の配偶者のうち、20歳以上60歳未満で、年間収入が130万円未満などの要件を満たす人を指す。2026年4月からは、雇用契約上の年収が130万円未満と明らかなら認定される扱いになった。
本人は保険料を負担しない。その期間は保険料納付済期間として基礎年金の額に反映され、費用は第2号被保険者全体が厚生年金保険料の中で負担する。1986年4月に始まった制度で、配偶者にも自分名義の年金を持てるようにする狙いがあった。
対象者は減り続けている。厚労省の資料によると、1995年度の1220万人をピークに2024年度は641万人と半分ほどになり、時事通信は2025年度末で約604万人と報じ、98%が女性だとしている。
縮小論の背景には働き方の変化がある。国民生活基礎調査で夫婦の組み合わせを見ると、第2号同士は2015年の31%から2025年は48%へ増え、夫が第2号で妻が第3号の組み合わせは52%から38%へ減った。共働き世帯からの「不公平」という批判に加え、就業調整による人手不足や女性のキャリア形成への影響も論点に挙がる。一方で2024年12月の年金部会の整理には、所得保障の機能に着目した意見も並んでいる。
受け取る年金の額はどうか。老齢基礎年金の満額は2026年度で月70,608円(昭和31年4月2日以後生まれ)。Xでは「年金3割減へ8万円→56000円」という別の投稿も出たが、第1回の資料と議事録に、第3号の見直しに伴う3割減や、その金額の記述はない。
検討会で割れた意見 廃止を求める委員と慎重な指摘
第1回の議事録を読むと、委員の立場はそろっていない。
連合の永井幸子構成員は「将来的な制度廃止に向けた道筋が明示されることを期待しております」と述べ、経団連の清家武彦構成員も「将来的な廃止も含めた見直しを検討するという方向性を明確に打ち出していただきたい」と求めた。
日本商工会議所の山内清行構成員は「影響を最小にとどめるための段階的な措置も必要だと思いますが、廃止も含めた見直しについても申し上げており、これは検討課題にしていただきたい」と発言。そのうえで「単なる廃止ということでもなく」と続け、就業や世帯の形を問わずカバーできる仕組みの検討も求めた。
別の角度から問いを立てたのが、明治学院大学教授の百瀬優構成員だった。「仮に、第3号を廃止した場合、数百万人規模の方が第1号になると考えられます」と述べ、国民年金の財政が悪化して基礎年金の水準が下がるという理解を示し、どの程度下がるのかを示すよう事務局に求めている。
答えた厚労省の年金局数理課長は、単純に第1号へ移ると仮定した場合は「定性的にはそのような形になる」としつつ、「どのような形で見直しをするかというのに、かなりよるところ」と説明した。低下の幅を示す数字は、第1回では出ていない。
社会保険労務士の佐藤麻衣子構成員は、財政への影響に触れる中で「やはり廃止とざっくりいくお話ではない」と語った。
扶養内パートへの影響 先に動くのは適用拡大の日程
扶養の範囲で働くパートの人にとって、日程がはっきりしているのは第3号の見直しより、厚生年金の適用拡大のほうだ。2025年の年金制度改正法で決まり、月額8.8万円の賃金要件は2026年10月に撤廃された。残る要件の中心は週20時間以上で働くことと、勤め先の規模である。
| 時期 | 勤め先の規模の要件 |
|---|---|
| 2027年9月まで | 51人以上 |
| 2027年10月から | 36人以上 |
| 2029年10月から | 21人以上 |
| 2032年10月から | 11人以上 |
| 2035年10月から | 要件なし |
人数は、フルタイムと、それに近い時間で働く厚生年金加入者の数で数える。要件に当てはまると本人が厚生年金に入り、第3号から第2号へ移って、勤め先と折半で保険料を負担する形に変わる。厚労省は、年金の増額などを加入のメリットとして説明している。
週20時間未満で働く人や、規模の要件に届かない勤め先(労使の合意で任意に適用している企業や、国・自治体の事業所を除く)で短時間働く人は、適用拡大の対象に入らない。今のルールでは、年収などの要件を満たせば第3号のままだ。この層に第3号の見直しがどう及ぶのかは、検討会でまだ示されていない。
自民党と日本維新の会の骨子は、複数の勤め先で働くマルチワーカーへの対応も挙げた。
130万円の壁がなくなるとも言い切れない。百瀬構成員は「第3号を廃止しても、健保の被扶養者の仕組みがそのままであれば、年収130万円の壁が残ることに変わりはありません」と指摘した。第3号は年金の仕組みで、健康保険の扶養は別の制度にあたる。
専業主婦や育児・介護で働けない人はどうなるのか
この問いには、まだ答えが出ていない。保険料を新たに負担するのか、育児や介護をしている人をどう扱うのか、第3号だった過去の期間をどう扱うのかは、いずれも検討会で決まっていない。過去の期間の扱いを直接論じた発言は、第1回の議事録で確認できなかった。
厚労省の資料は、第3号の中身が一様ではないことを示している。国民生活基礎調査の特別集計では5割以上が就労し、雇用者の8割以上がパートだった。ただ、末子が0〜2歳の人では就労は約3割にとどまる。働いていない第3号のうち、末子が0〜2歳の人は約6割が「就業希望あり(すぐに仕事に就けない)」にあたり、すぐ就けない理由は20〜40歳代で「出産・育児」が最も多く、50歳代では「介護・看護」が増える。
この実情を確かめるのが実態調査だ。労働政策研究・研修機構(JILPT)に研究を要請し、学生を除く20〜59歳で年収260万円以下の男女を対象に、全体で2万人規模、うち第3号は9,000人に聞く。配偶者や子ども、親の介護の状況、働く時間を制限する理由、働いていない理由のほか、制度変更への意向も項目に入った。あわせて約70人へのヒアリングも予定されている。
配慮のあり方では、委員からいくつかの考えが出た。NPO法人子育てひろば全国連絡協議会理事長の中條美奈子構成員は、「現在3号である方の背景も一様ではありません」としたうえで「それぞれが無理なく移行していけるような制度設計が必要」と話した。東北大学教授の嵩さやか構成員は「諸外国のように、育児などを契機として保険料を免除するという制度設計はあり得る」と述べ、「皆年金の実質を極力損なわないようにする」ことを重視する考えを示している。
百瀬構成員は、第3号を廃止してケアに着目した免除制度を設ける案と、第3号を維持して対象をケアを担う人に限る案があることを紹介した。ただ、廃止して育児や介護の免除にする案については「私はそれに賛成しているという意味ではなくて、論点として提示した」と補足し、育児以外のケアを年金制度の中で支援することの難しさも指摘している。
保険料については民間の試算もある。共同通信によると、大和総研は第3号の人が月約1万8千円の国民年金保険料を負担し、将来の給付は現状のままと想定した場合、18.3%の厚生年金保険料率を0.2〜0.4ポイント下げられると試算した。半額の負担なら0.1〜0.23ポイントで、これらは計算上の想定であり、検討会が示した案ではない。
見直しの経緯と次の予定
開催要綱と資料、閣議決定の文書で確認できる経緯は、次のとおりだ。
- 2025年6月13日:年金制度改正法(令和7年法律第74号)が成立。附則に、第3号の実情の調査研究と在り方の検討を規定
- 2026年7月7日:自民党と日本維新の会の社会保障制度改革協議体が骨子で「その縮小に向け」と明記し、実態調査と検討会の立ち上げを示す
- 2026年7月21日:骨太方針2026を閣議決定。13の社会保障改革項目全体について、骨子に基づき「2026年度中に具体的な制度設計を行い、順次実行する」と記載
- 2026年8月5日:「給付付き税額控除」の制度導入の基本方針を閣議決定。第3号の見直しについて「次期年金法改正までに結論を得る」と記載
- 2026年9月4日:検討会の第1回を開催
法律の附則は2025年10月21日の高市政権の発足より前に成立し、骨子と骨太方針、基本方針は発足後にまとめられた。
骨太方針の「2026年度中に具体的な制度設計」は13項目全体にかかる文で、第3号の名前は出てこない。第3号について骨子が今年度中の作業として挙げるのは、実態調査の取りまとめと課題の整理だ。検討会の事務局は、その後の2027年度も検討を続ける予定を示している。政府の基本方針が示す結論の期限は次期年金法改正までで、それより細かい日付や制度の中身は示されていない。
検討会のページに掲載されている開催回は、2026年11月3日時点で第1回のみ。議事録は10月27日に載り、第2回の日程は出ていない。事務局は第1回の最後に「次回の議題、それから開催日時につきましては、おって御連絡を差し上げます」と伝えた。
2026年度中は、過去の議論の振り返り、実態調査の結果報告、構成員のプレゼンテーションが予定されている。第3号がどの範囲で、いつ変わるのか。その答えは、調査結果を受けた議論の先にある。
[文/構成 by ライター 飯田タツヤ]











































































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