ベネズエラ戦のPK判定変更、佐藤隆治審判マネジャーがVAR介入を解説 2つの場面の間は13秒

時間がない人向けの30秒で理解ゾーン
日本サッカー協会(JFA)は10月21日、東京都内でメディア向けのレフェリーブリーフィングを開き、9月28日の日本代表対ベネズエラ代表戦で起きたPK判定の変更について説明した。元国際審判員の佐藤隆治JFA審判マネジャーは、VARを使う以上こうした事態は起こり得るとしたうえで、2つの場面の間は約13秒しかなく、途中でプレーを止めるのは難しかったと語った。
後半ATに一転、ベネズエラのPKが日本のPKに
舞台は9月28日、エディオンピースウイング広島で行われたキリンチャレンジカップ2026だった。1-1で迎えた後半アディショナルタイム、久保建英(25)=レアル・ソシエダ=がドリブルでペナルティーエリア右へ入り、中へ折り返したボールが戻ってきたところに足を出して、ベネズエラのMFヤンヘル・エレーラと接触して倒れる。主審はノーファウルと判断し、プレーはそのまま続いた。
ここからベネズエラが速攻に出る。日本は終盤に渡辺剛が負傷し、交代枠を使い切っていたため10人で戦っていた。数的優位を生かしたカウンターで、FWヘスス・ラミレスが日本のペナルティーエリア内でDF鈴木淳之介と交錯して倒れ、主審はベネズエラにPKを与えた。
だが、キックは行われなかった。
VARが介入し、主審はピッチ脇のモニターで映像を確認するオン・フィールド・レビューを行った。対象は直前に反対側のエリアで久保が倒れた場面で、主審は久保が足を踏まれていたとしてファウルを認定。ベネズエラのPKは取り消され、日本のPKに変わった。これを上田綺世(28)=リール=が決め、日本が2-1で勝利。上田は後半4分の同点ゴールと合わせて2得点となり、日本にとってはベネズエラとの6度目の対戦で、90分間での初勝利となった。
この試合の主審はオーストラリアのティモシー・ダナスコス氏で、VARも同国のアレクサンダー・キング氏が務めた。
「13秒」の間に何が起きていたのか
佐藤マネジャーの説明によると、判定の流れは次のとおりだった。久保への接触の場面で、現場のレフェリーはPKを取らなかった。ただし、ペナルティーエリア内の出来事なので、VARはPKの可能性がある場面として当然チェックする。その最中、約13秒後に反対側でベネズエラの選手が倒され、主審はPKを宣告した。VARはその前の久保の場面について、足を踏まれていてPKの可能性が高いと判断し、主審にオン・フィールド・レビューを勧めた。
先に起きた反則が優先される。そのため、ベネズエラのPKを取り消して日本にPKを与える結論になった。
VARの運用では、プレーが一度も途切れずに続いている間であれば、時間が経っていても、場所が離れていても、同じインプレー中の場面までさかのぼって確認できる。逆に、いったんプレーが再開されると、原則としてその前の判定は変えられない。久保が倒れてからベネズエラのPK宣告まで、ボールは一度もアウトオブプレーになっておらず、さかのぼっての確認がそのまま認められた。
では、なぜ久保の場面の直後に試合を止めなかったのか。
佐藤マネジャーは、次のPKが起きる前にプレーを止めて映像を確認するのが理想だと認めた。それでも、2つの場面の間は13秒ほどで、VARが確認している段階ではベネズエラが大きなチャンスを迎えようとしていた。その状況で止めるのは現実的ではなかった、というのが説明の要点だ。
ベネズエラは猛抗議、久保は相手の足を読んでいた
判定に、ベネズエラ側は収まらなかった。試合終了の笛が鳴ると、ベンチの選手もピッチに入って審判団を取り囲み、強く抗議した。
オスワルド・ビスカロンド監督は試合後、終盤のPKについて「我々のPKになると思っていたので、日本のPKになってとても驚きましたが、我々にできることはありません」とコメントした。報道によると、会見ではアディショナルタイムの扱いを含めた試合中の判定にも不満を示し、審判の判定は自分たちへのリスペクトを欠いていたと感じたとも語っていた。
PKを得た久保は、試合後にこう話した。「結果的にPKになりましたが、その前に、点を取りに行こうと思ってボールを持って上がっているので、それで自分が足を踏まれてということになりました」。1人少ない状況でも時間を稼がず、得点を狙いにいった結果のPK獲得だった。
接触した相手のエレーラは、レアル・ソシエダのチームメート。報道によると久保は、相手が足を出してくると読んでいたと明かしている。
元W杯審判員が語る「起こり得る」の意味
説明役の佐藤マネジャーは愛知県出身。2004年に1級審判員に登録され、2009年から国際主審とプロフェッショナルレフェリーを務めた。2018年のFIFAワールドカップロシア大会の審判員に選ばれ、グループステージで第4の審判員を担当。同じ年のFIFAクラブワールドカップUAE2018にも選ばれ、2019年のAFCアジアカップUAE2019でも笛を吹いた。J1では主審として276試合を担当し、Jリーグ最優秀主審賞を2018年と2022年に受けた。2022シーズン限りでトップリーグの担当から退き、現在はJFAの審判マネジャーとして判定の説明役を担う。
ワールドカップの現場を知る元トップレフェリーが強調したのは、VARの手順に沿う以上、今回のような判定は起こり得るという点だった。同じインプレーの中で、両方のペナルティーエリアで際どい場面が続く。攻守の切り替えが速いサッカーならではの展開が、PKを得るチームが入れ替わるという落差の大きい結末を生んだ。
21日のブリーフィングでは、ベネズエラ戦のほかにもJリーグでVARが介入した場面が取り上げられた。J1の鹿島アントラーズ対ガンバ大阪戦で、鹿島のFW吉田湊海のゴールがVARの介入で取り消された場面もその一つで、VARが介入すべき事象だったかどうかについて、審判委員会の考え方が示された。
同様の「逆転判定」は過去にも
PKを得るチームが入れ替わる判定は、海外でも例がある。2021年5月9日のラ・リーガ第35節、レアル・マドリード対セビージャ戦では、レアル・マドリードのカリム・ベンゼマが倒されてPKが与えられた直後にVARが介入。その前に反対側のエリアでエデル・ミリトンの腕にボールが当たっていたとしてハンドが取られ、セビージャのPKに変わった。
今回の日本対ベネズエラ戦も、構図はこれとほぼ同じだった。判定は競技規則とVARのプロトコルに沿ったもので、日本の勝利は変わらない。それでも、直前まで決勝点のチャンスを手にしていたベネズエラにとっては、受け入れがたい結末になった。審判の側がプレーを止められるタイミングはどこにあったのか。佐藤マネジャーの説明は、その問いに、13秒ほどの間でプレーを止めるのは現実的ではなかったと答えるものだった。
[文/構成 by スポーツライター TAKU]










































































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