MEDIA DOGS

「ドラゴンボール」テーマパーク、なぜ日本ではなくパリなのか 1兆円超の出資と“国家戦略”の差を整理する

「ドラゴンボール」テーマパーク、なぜ日本ではなくパリなのか 1兆円超の出資と“国家戦略”の差を整理する

時間がない人向けの30秒で理解ゾーン

フランス大統領府が8月24日、パリ近郊に3つのテーマパークを建設することでサウジアラビア側と合意したと発表した。うち1つは「マンガの世界」がテーマで、ドラゴンボールを想定した施設とされる。出資はサウジアラビアの政府系ファンド傘下企業で、投資額は約1兆1100億円。日本のファンからは「なぜ日本ではないのか」という反応が相次いだ。

パリ北西約30キロに3施設、投資額は約1兆1100億円

フランス大統領府が8月24日、パリ北西約30キロのセルジー=ポントワーズ(ヴァル=ドワーズ県)に3つのテーマパークを建設することで、サウジアラビア側と合意したと発表した。そのうち1つが「ドラゴンボール」をテーマにした施設になる見通しだ。サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマーン皇太子のパリ訪問に合わせた公表だった。

投資額は60億ユーロ、日本円で約1兆1100億円。直接雇用は約2万2000人が見込まれる。出資するのは、サウジの政府系ファンドであるパブリック・インベストメント・ファンド(PIF)傘下のキディヤ・インベストメント・カンパニーだ。ただし今回署名されたのは基本合意にあたる文書で、詳細は今後の交渉に委ねられる。

マクロン大統領は自身のXで「型破りな発表です。私がマンガに関心を持っていることはご存じでしょう」と書き出し、「サウジアラビアとともに、私たちは前例のない発表を行います」「セルジー=ポントワーズに3つのテーマパークが誕生します。60億ユーロの投資。2万2000人の雇用創出。ディズニーランド・パリ以来、前例のないことです」と続けた。

開業時期は決まっていない。建設には数年かかる見通しだ。

きっかけは首脳同士のドラゴンボール談議

計画が動き出した経緯は、やや意外なものだった。

2024年12月にマクロン氏がサウジアラビアの首都リヤドを訪れた際、両首脳ともドラゴンボールの大ファンだと分かり、話が盛り上がった。仏大統領府の補佐官がそう説明している。国家間の巨額プロジェクトが、少年漫画の話題から芽を出す。

サウジ側にとって、この投資は国家戦略の一部だ。脱石油の経済多角化を掲げる「サウジビジョン2030」に基づき、娯楽都市キディヤ・シティの開発を進めてきた。そのキディヤ・シティ内にも、2024年3月の時点でドラゴンボールのテーマパーク建設がすでに発表されている。

日本のIPが選ばれる土壌もあった。サウジのパーク発表時にキディヤ側が示した数字によると、国民の約8割がアニメを見た経験を持ち、4割がドラゴンボールに触れている。皇太子もアニメやゲームを好む親日家として知られる。

なぜ日本ではないのか 国内市場が抱える事情

「日本に造ればいいのに」。SNSにはそんな書き込みが目立つ。ただ、国内でドラゴンボール単体のテーマパークを成り立たせるのは簡単ではない。

明治大学経営学部兼任講師の中島恵氏は、サウジの計画が出た2024年4月にビジネスジャーナルの取材へ「日本ではディズニーリゾートとユニバーサルスタジオジャパン(USJ)が強すぎるので、ドラゴンボール単体のテーマパークは太刀打ちできないのではないでしょうか」と指摘していた。

2大パークが客と資金を吸い上げる市場で、単独のIPが採算を取るハードルは高い。対するサウジは、60万人規模の新都市そのものを造る計画の中にパークを置いている。中島氏は「計画通り60万人規模の都市がつくられれば、200万人の来場者も見込める」との見方も示した。

資金の出どころも違う。今回の原資はサウジの政府系ファンドだ。国家が数兆円単位の資金を娯楽産業に投じ、そこへ他国のIPを呼び込む。日本の民間企業が単独で挑む規模ではない。

ビジネスジャーナルは、サウジが観光立国を目指すうえで主要コンテンツのひとつとしてドラゴンボールに白羽の矢を立てたのは「ある意味で必然ともいえる」と結んでいる。

鳥嶋和彦氏「日本の子どもが行けない場所だから」

サウジのパーク計画に対し、2025年夏に公然と反対を表明していたのが、週刊少年ジャンプ6代目編集長の鳥嶋和彦氏だった。鳥山明さんを世に出し、ドラゴンボールの担当編集を務めた人物である。

鳥嶋氏はダイヤモンド・オンラインのインタビューで、反対の理由をこう説明していた。「日本の子どもが行けない場所だからです」

さらに「漫画をつくるのは出版社と作家ですが、育てるのは読者です」と続け、「読者が応援し、買ってくれたからこそ成立しているわけで、目先の金儲けだけで動くのは本質を見失っている」と語った。

ただし、サウジという場所そのものを否定したわけではない。2025年8月のラジオ番組では「サウジに作るから文句言ってるんじゃない」とも発言している。日本の子どもたちとつながる仕掛けがあるのかどうか。鳥嶋氏が問うているのはそこだ。

鳥嶋氏のこれらの発言はいずれも2025年のもので、今回のパリ計画を受けたものではない。それでも今回の発表を機に、当時の指摘が改めて読み返されている。

分かれるファンの受け止め、見えない日本側の動き

日本のファンの受け止めは割れた。「日本でやれよ…鳥山さんも泣いてるわ」「これは正に文化盗用だろ」と反発する書き込みが目立つ一方、「集英社なりバードスタジオなりはライセンス料ちゃんともらえるんだよね?」と権利元の取り分を案じる向きもある。「やる気あるならええやろ」と冷静に受け止める書き込みも見られた。

海外では「絶対に行く!」と歓迎する投稿や、「ヤムチャに会えるのが待ちきれない!!」とネタとして楽しむ反応が並ぶ。「大ヒットするかもしれない」と期待する見方も出ている。フランスはヨーロッパ最大の漫画・アニメ市場だ。ファン層の厚さという点では、立地に理がある。

一方、パリの計画について日本側の公式発表は、現時点で確認できていない。

2024年3月に発表されたサウジのパークは、キディヤ・インベストメント・カンパニー、バードスタジオ、集英社、東映アニメーションによる正式なプロジェクトだった。50万平方メートルを超える敷地に7つのエリアを設け、カメハウスやカプセルコーポレーション、ビルスの星を再現する構想で、建設費はサウジ側が負担し、東映アニメーションがライセンスを供与する。

対して今回のパリの件で発表しているのは、仏大統領府とサウジ側のみ。東映アニメーションのプレスリリース一覧に、この計画に関する掲載は見当たらない。仏メディアによると、大統領府が示したのはあくまで「マンガの世界」をテーマにしたパークで、ドラゴンボールのライセンスは今後の交渉事項とみられている。権利面がどう整理されるのかは、日本側からの説明を待つ段階だ。

建設には数年かかる。日本のファンが実際に足を運べる日が来るのかも、まだ分からない。

[文/構成 by 小川そら]

コメントはこちら

*
*
* (公開されません)

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)

ライフハック/実用

More

グルメ

More

エンタメ

More

社会/ニュース

More

旅行/スポット

パステルカラーの雑貨やぬいぐるみが並ぶ、明るく楽しいキャラクターグッズ専門店の店内

クレヨンしんちゃんオフィシャルショップ名古屋店、9月4日に名古屋PARCO西館8...

「クレヨンしんちゃん」の常設オフィシャルショップ「アクションデパート 名古屋店」が9月4日、名古屋PARCO西館8階にオープンする。東海エリア初の常設店だ。開店記念の缶バッジ配布や、同フロアの他店の名古屋限定商品まで整理した。
More

ファッション/ビューティー

More
Return Top