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塚本晋也監督『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』に約8分のスタンディングオベーション ベネチア国際映画祭

塚本晋也監督『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』に約8分のスタンディングオベーション ベネチア国際映画祭

時間がない人向けの30秒で理解ゾーン

塚本晋也監督の最新作『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』が、現地時間9月4日(金)に第83回ベネチア国際映画祭のワールドプレミアで上映された。コンペティション部門への正式出品で、上映後は約8分間にわたる拍手が鳴り止まなかった。実際にベトナム戦争へ従軍したアレン・ネルソン氏の証言をもとに、戦争加害者の傷を描いた作品だ。日本では9月11日から公開される。

拍手鳴り止まず、ロドニー・ヒックスは涙

会場は満席だった。上映中、観客は固唾をのんでスクリーンを見つめ、静かな緊張感に包まれていたという。エンドロールが始まると空気は一変する。観客が一斉に立ち上がり、鳴り止まない拍手と歓声が沸き起こった。スタンディングオベーションは約8分に及んだ。

塚本監督とジェフリー・ラッシュは感動の面持ちで客席を見渡し、主演のロドニー・ヒックスは感激のあまり涙を流した。上映後の囲み取材で塚本監督は「実際に上映してみるまで、どのようなリアクションがあるのかはわかりませんでした」と振り返り、「今日、実際に上映して、お客様に伝わったという感触を得られたので、本当に良かったなと思います」と手応えを口にした。塚本監督はヴェネチアについて「緊張するというよりホームグラウンドに戻った安心感がある。第2の故郷のようで、温かい雰囲気で上映できたのがうれしい」とも語っている。

公式記者会見には塚本監督、精神科医ニール・ダニエルズ役のジェフリー・ラッシュ、アレン・ネルソン役のロドニー・ヒックスが登壇。会場には世界各国から約100人以上の記者が集まった。ラッシュは『英国王のスピーチ』などで知られるアカデミー賞俳優、ヒックスはブロードウェイの舞台で活躍してきた俳優だ。

『野火』の製作中に出会った一冊の本

企画の原点は10年前にさかのぼる。塚本監督は記者会見で「10年前に『野火』の製作時に出会ったのが本作です」と語り始めた。「アレン・ネルソンさんというアフリカ系アメリカ人のベトナム戦争体験を描いた本だったのですが、その本に出会ってショックだったのは、戦争で起こることを正直に、そのまま赤裸々に語っていたことです。加害者側の目線で描かれていたことにも非常に大きな驚きがありました」

ネルソン氏は実際にベトナム戦争へ従軍し、帰還後は日本を含む各地で講演を重ねてきた人物だ。塚本監督はその証言を、加害者となった側の心の傷という、戦争映画でこれまで十分に描かれてこなかった角度から映像化した。

撮影はニューヨーク、ベトナム、タイ、沖縄の4カ所で行われた。ラッシュが演じたニール・ダニエルズ役は、1週間という限られた撮影期間でネルソンの回復に向き合う密度の高い役どころだった。ラッシュは撮影を振り返り、「塚本監督から、演じる前によく質問をされました。50年役者をやっていますが、そうした質問から大きなパワーを感じました」と語る。カメラの存在を忘れるほど集中できる現場だったとも明かした。日本人キャストからは、リリー・フランキーがネルソンの活動を支える黒井役で名を連ねている。

「戦争を止めようという気持ちで」

塚本監督は本作にかける思いをこう語った。「僕は戦争を止めようというくらいの気持ちでこの映画を作っています。観ていただいた方に、頭で考えるだけではなく、体で戦争の恐ろしさを感じてもらい、本能的に戦争を拒否するような体感を持ってもらいたいと信じて作っています」

主演のロドニー・ヒックスは、脚本を初めて読んだ時から出演を決意したという。「アフリカ系アメリカ人の退役軍人が戦争から戻った後の物語を描いた作品は初めてです。また、PTSDというテーマがここまで描かれることもありませんでした。塚本監督がご自身の演出によって、フィルターを通さず、正直に物語を描いてくれました」と明かし、「ある種の観客に対して、種まきができたのだと思います。これからどのような形で水をあげていけば、そこから何かが芽を出すかもしれないと思います」と続けた。

一方でジェフリー・ラッシュは、戦争を止める力については慎重な見方を崩さない。「これで戦争を止められるかというと、非常に難しい。むしろ今の時代は、ひどくなっている気がします」。そのうえで「”なぜ私たちは戦争をするのか”という疑問を、本作は多くの人に投げかけることができたと思います」と評価した。

塚本監督自身も、上映前は不安を抱えていたという。「自分が強く投げたと思っている石つぶが、吸い込まれてしまうのではないかという気持ちが今日までありました」。しかし観客の反応を受け、その不安は手応えへ変わる。「もしかすると、戦争を止められるかもしれないという気がしました。そのためには少しでも多くの人に観てもらって、戦争を決める上の人たちのことを止められることはできる。なるべく多くの人に観てもらうことができれば、もしかすると戦争をかなり止められるのではと今日のリアクションを見る限り、感じました」

9月11日に日本公開、ベネチアとの深い縁

『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』は9月11日からkino cinéma新宿ほか全国で公開される。配給はキノフィルムズ。上映時間は116分、レイティングはPG12となっている。

塚本監督とベネチア国際映画祭の縁は深い。1998年の『バレット・バレエ』以来、全部門を通じた参加は今回で8回目、コンペティション部門への正式出品は『鉄男 THE BULLET MAN』『野火』『斬、』に続いて今回が4回目だ。過去には2002年『六月の蛇』でコントロコレンテ部門(現在のオリゾンティ部門)審査員特別大賞、2011年『KOTOKO』でオリゾンティ部門オリゾンティ賞、2023年『ほかげ』でオリゾンティ部門NETPAC賞を受賞しており、審査員も2度務めてきた。授賞式は9月12日に予定されている。

戦争の記憶をどう次の世代へ継承するか。ベネチアの観客が示した約8分の拍手は、その問いへの一つの答えだった。

[文/構成 by MediaDogs編集部]

寄稿者

MediaDogs編集部
メディアドッグス株式会社のMediaDogs編集部チーム。インターネットマーケティングに約10年携わるメンバーで編成し、企画・取材・執筆から公開後の改善まで一貫して担当。「出会いを、設計する。」のもと、人と企業が正しく出会える場をつくるために、一次情報の確認とファクトチェックを徹底。情報をわかりやすく誠実に届け、読者の疑問を解決します。

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