藤垣裕子とは何者?東大初の女性総長に選ばれた64歳、科学技術社会論の研究と副学長時代の経歴

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東京大学の次期総長予定者に、大学院総合文化研究科教授の藤垣裕子(64)が選ばれた。女性の総長は東大で初めてとなる。東京都生まれで、東大教養学部を卒業して同じ大学で博士号を取り、2021年から2025年までは理事・副学長を務めた。本記事では、藤垣がどんな道を歩み、何を研究してきた人物なのかを、公表された経歴と会見での発言から整理する。
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東大初の女性総長予定者、決まったのは9月28日
東京大学の総長選考・監察会議が藤垣を次期総長予定者に選んだのは、2026年9月28日だった。文部科学大臣の任命を経て第32代総長に就く予定で、任期は2027年4月1日から2033年3月31日までの6年間となる。
1877年の創立から約150年。就任すれば、初めて女性がトップに立つ。
選考では教職員による意向投票が2回行われ、2回目は有資格者2583人のうち2169人が投票した。藤垣は553票で2位となり、意向投票2位からの選出をめぐって学内から説明を求める動きが出ている。東大は10月16日、選考の説明を求めた教職員有志の要望書に対し、総長選考・監察会議の回答書を公表し、10月20日には文部科学省が選考経緯の検証を大学側に依頼した。東大側は検証の準備を進め、説明責任を果たす考えを示している。
関連記事:東大総長選考、文科省が検証を依頼 議長・国谷裕子氏の回答と投票2位・藤垣裕子氏選出の経緯
教養学部から国の研究所、そして教授へ 藤垣裕子の経歴
藤垣は1985年に東京大学教養学部を卒業した。大学院は総合文化研究科に進み、1987年に広域科学専攻の修士課程を修了、1990年に博士(学術)を取っている。
その後の歩みを表にまとめた。
| 年 | 経歴 |
|---|---|
| 1985年 | 東京大学教養学部卒業 |
| 1987年 | 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻修士課程修了(学術修士) |
| 1990年 | 同研究科で博士(学術)を取得 |
| 1990年 | 東京大学教養学部助手 |
| 1996年 | 科学技術庁科学技術政策研究所主任研究官 |
| 2000年 | 東京大学大学院総合文化研究科助教授 |
| 2010年 | 東京大学大学院総合文化研究科教授 |
| 2013年 | 東京大学総長補佐 |
| 2013〜2016年度 | 科学技術社会論学会会長 |
| 2015年 | 総合文化研究科副研究科長・教養学部副学部長 |
| 2021〜2025年 | 東京大学理事・副学長(学生支援、入試・高大接続、評価、研究倫理を担当) |
| 2026年9月28日 | 次期総長予定者に選出 |
助手のあと、国の科学技術政策を調べる研究所へ移った経歴が目を引く。科学技術庁の科学技術政策研究所は、研究開発の動きや政策の効果を分析する国の機関で、現在は文部科学省の科学技術・学術政策研究所になっている。大学の外で政策と研究の現場を見た経験は、のちの研究テーマとも重なる。
大学に戻ってからは、教養学部を抱える総合文化研究科で教育の運営にも関わった。2015年度からは、教育運営委員会の学部大学院部会や後期教養科目運営委員会の委員長も務めた。
科学技術社会論とは? 専門家と市民の間を考える研究
専門は科学技術社会論と科学計量学だ。
科学技術社会論は、科学や技術が社会とどう関わるかを考える学問で、英語の頭文字から「STS」とも呼ばれる。例えば新しい技術を社会で使うかどうか決める場面では、専門家が示す科学的な正しさと、そこで暮らす人たちの納得が食い違うことがある。藤垣が長く向き合ってきたのは、そのずれをどう扱うかという問いだった。2013年度から2016年度までは、この分野の研究者が集まる科学技術社会論学会の会長も務めた。
東大の教員紹介では、研究テーマに「科学と社会の接点に発生する課題の分析」「科学者の社会的責任論」などが挙がる。キーワードには「専門知と公共性」「科学的合理性と社会的合理性」「市民参加」が並び、先端科学技術のELSI、つまり倫理的・法的・社会的な側面も研究対象としてきた。もう一つの専門である科学計量学は、論文の数や引用のされ方といったデータから研究の動きを測る分野となる。
『専門知と公共性』から『科学者の社会的責任』まで
研究の中身は著書からもたどれる。代表作は2003年に東京大学出版会から出た『専門知と公共性 科学技術社会論の構築へ向けて』。副題のとおり、科学技術社会論という分野の土台づくりを目指した一冊だった。
2018年には岩波書店の岩波科学ライブラリーから『科学者の社会的責任』を出している。版元の紹介によると、科学者が誰に対してどんな責任を負い、どう果たすべきかを、日本の過去の責任論や事例、EUの大型研究プログラムで進む「責任ある研究とイノベーション」(RRI)の取り組みを手がかりに考える内容だ。責任を「責任ある研究の実施」「製造物責任」「応答責任」の3つに分けて整理している。
教養教育の分野では、石井洋二郎との共著『大人になるためのリベラルアーツ 思考演習12題』(東京大学出版会、2016年)もある。簡単に答えの出ない問題を取り上げ、異なる価値観を持つ人との対話で考える力を鍛える構成で、続編も刊行された。
副学長として5年、入試と学生支援を担当
2021年から2025年まで、藤垣は理事・副学長として大学の運営を担った。受け持ったのは学生支援、入試・高大接続、評価、研究倫理の分野だ。入試・高大接続は、高校での学びと大学の入試・教育をどうつなぐかを扱う領域となる。
会見では、入試担当の経験に自ら触れた。
私、入試担当の理事を5年もやっていた
学生については「東京大学には非常に才能にあふれた、可能性が高い学生さんがたくさん入ってまいります」と語った。4年間で先生や友人と触れ合いながら自分の中にある可能性の芽に気付き、それを伸ばす環境を自分で整える力を身に付けてほしいとも続けた。総長補佐だった2013年ごろから設計に携わった後期教養教育については「日本の専門家教育の欠陥を補うという働きをしているかなと思います」と評価している。
会見で語った「3層の仕事」と目指す大学像
選出翌日の9月29日、藤垣は記者会見に臨んだ。最初に口にしたのは、役職の重さだった。
東京大学は日本の中でも特に、特に優れた研究者が集まる場所でございまして、その代表という総長という役職を拝命することになり、大きな重責を感じております。
6年の任期について「それほど長いものではございませんが、少なくとも3層の仕事をしたいと考えております」と述べ、中身を順に挙げた。
1層目は、新しい研究組織の設計だ。藤垣は「国際卓越のためにですね、Global Research Integrationという組織を作ろうとしているのですが、それをうまく設計するための部局との丁寧な議論を続けること」と説明した。2層目は中長期の外部戦略。3層目には「日本の大学システムの将来について、政府・社会に問いかけて、常に社会と共に大学の在り方を考えていく」ことを掲げた。社会と大学の関係を問い続けてきた研究者らしい柱が並ぶ。
目指す大学像については「まず大学とは何かという原点に立ち返り、東京大学の日本および世界のAcademic Societyの象徴としての役割をきちんと果たしていきたい」と語った。
初の女性総長として
創立150周年の記念行事で歴代の総長を迎える立場になることにも触れ、女性初の総長としての意味をこう語った。
150年経ってようやく初めて女性総長を生み出して、その女性総長として代々の総長をお迎えするというのは、社会にとってもかなりメッセージ性があるのではないかというふうに考えております。
そのうえで「研究者を目指す女性が増えてくださることを期待しております」とも話した。
就任は2027年4月の予定で、文部科学大臣の任命が前提となる。文部科学省が依頼した選考経緯の検証がどう進むかも、就任までの焦点の一つだ。科学と社会の対話を研究してきた藤垣が、大学と社会の対話をどう形にするのか。任期の始まりまで、残りは約半年となる。
[文/構成 by さとう つづり]









































































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