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金正恩氏の死亡説、発端は米在住の中国人活動家の投稿 近影は10月19日の展示会視察、その後も訪中や無人機展示会に姿

金正恩氏の死亡説、発端は米在住の中国人活動家の投稿 近影は10月19日の展示会視察、その後も訪中や無人機展示会に姿

時間がない人向けの30秒で理解ゾーン

北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記が死亡したという主張が10月中旬、SNSで広がった。発端は米国在住の中国人反体制活動家によるXへの投稿で、証拠は示されていない。北朝鮮の国営メディアは10月20日、金氏が19日に平壌の展示会を視察したとする写真を公開し、その後も中国・丹東への訪問や無人機展示会への出席を伝えている。死亡を裏付ける情報はなく、写真の撮影日も外部からは独自に確かめられない。

死亡説の発端は米在住の中国人活動家のX投稿

死亡説を最初に発信したのは、米国在住の中国人反体制活動家、謝万軍(シエ・ワンジュン)氏だった。中国当局が非合法としている「中国民主党」の主席を名乗る人物で、10月19日ごろ、Xに金氏が脳出血で倒れ、北京の病院に運ばれたあと死亡したと書き込んだ。

主張はそれだけで終わらない。遺体がひそかに北朝鮮へ戻されたという話、中国軍が平壌に送られて娘のジュエ氏による後継体制を支えているという話、妹の金与正(キム・ヨジョン)氏が実権を握ったという話が、相次いで同氏の投稿などから広がった。どの主張にも、裏付けとなる資料は付いていなかった。

謝氏は過去にも、中国の習近平国家主席が死亡したとする根拠のない情報を流したことがあると報じられている。ところが今回の投稿は英米の大衆紙などにも取り上げられ、短い期間で世界に広がった。

朝鮮中央テレビを装ったAI画像も拡散

10月21日には、朝鮮中央テレビの放送画面を装い、金氏の死亡を伝える文字を入れた画像付きの投稿がXで広がった。日本ファクトチェックセンターによると、この投稿の表示回数は1270万回を超え、リポストは3600件以上に達した。

同センターが画像をOpenAIの検証ツールにかけたところ、AIで作られたことを示す電子透かしが検出された。同センターは、画像は実際の放送ではなくAIで生成された可能性が高いとし、死亡したという主張を「根拠不明」と判定している。2020年4月の日本の報道映像を、今の出来事のように使った投稿も見つかった。

北朝鮮が公開した近影は10月19日の展示会

死亡説が出回るさなかの10月20日、北朝鮮の国営メディアが動いた。北朝鮮の国営通信社である朝鮮中央通信と朝鮮中央テレビは、金氏が19日に平壌で開かれた「全国被服・靴展示会2026」を視察したと伝え、写真を公開した。

展示会には国内で作られた衣類や靴、かばんなどが並び、地方に新しくできた工場の製品も出品された。視察には妻の李雪主(リ・ソルジュ)氏と娘のジュエ氏が同行し、婦人用のコートや子ども用の靴を見て回る様子も写真に収められている。金氏はデザインに力を入れれば経済効果と生産性を高められると述べ、衣服に国旗を取り入れることも勧めたという。

北朝鮮メディアが金氏の公開活動の写真を出したのは8日ぶりだった。直前には10日の党創建記念の公演、11日の国防関連の博物館の開館式に姿を見せたと伝えていた。

注意したい点がある。北朝鮮側は報道の中で死亡説には一切触れていない。写真がいつ撮られたのかも外部の独立した手段では確かめられず、海外の報道も撮影日は未確認だと断ったうえで伝えた。

死亡説のあとも丹東訪問や無人機展示会に姿

北朝鮮の国営メディアはその後も、金氏の動静を続けて報じた。死亡説が出てから伝えられた主な公開活動は次のとおりだ。

日付場所主な内容
10月19日平壌全国被服・靴展示会2026を視察。妻と娘が同行(20日に報道)
10月22〜23日平壌朝鮮人民軍の第3回中隊長大会を指導し、演説(24日に報道)。27日には参加者と記念撮影(28日に報道)
10月24日中国遼寧省丹東日帰りで訪中。王滬寧氏と会談し、記念館やバス工場を訪問(25日に報道)
10月29日北朝鮮国内無人機の展示会に出席し、600ミリ多連装ロケット砲の射撃などを視察。妻と娘が同行(30日に報道)

開通したばかりの橋を渡り、日帰りで丹東へ

10月24日、金氏は中国遼寧省の丹東を日帰りで訪れた。迎えたのは中国共産党の序列4位で、全国政治協商会議の主席を務める王滬寧(ワン・フーニン)氏だ。中国外務省の発表によると、金氏は朝鮮戦争で戦った中国人民志願軍の記念館を訪れて記念塔に花かごを供え、午後には自動車工場の生産現場を見て回った。北朝鮮側はこの工場をバス工場と伝えている。

帰りに使ったのは、丹東と北朝鮮の新義州を結ぶ新鴨緑江大橋だった。2014年に完成しながら長く使われず、10月15日に正式に開通したばかりの橋で、全長は3026メートル。王氏は橋の中ほどまで金氏を見送ったと報じられている。

金氏の訪中は、権力を受け継いでから6度目とされる。過去5回はいずれも習近平氏と会談していたが、今回は会わなかった。習氏と顔を合わせずに中国訪問を終えるのは初めてだ。朝鮮中央通信は翌25日にこの訪問を伝えた。

無人機の展示会では600ミリ砲の射撃も

10月29日には、無人機の展示会「無人航空技術発展-2026」に出席した。朝鮮中央通信が30日に伝えた内容によると、自爆型の無人機や巡航ミサイルの試験とあわせて、超精密とうたう600ミリ多連装ロケット砲の射撃が初めて公開された。

金氏は演説で、軍事用の人工知能や無人機の技術開発を急ぐよう科学者らに求めたという。この日も妻の李雪主氏と娘のジュエ氏が同行していた。

韓国国家情報院が示した評価

韓国政府はどう見ているのか。

外交・安全保障の当局者は早い段階で、死亡説を裏付ける情報は聞いていないと説明していた。韓国の情報機関である国家情報院は10月23日、国会情報委員会への非公開の報告で、死亡説を「明白な虚偽」と位置づけた。健康に急な異変があったという話にも根拠はなく、情報の面から見て信頼性はないと判断したという。出席した議員らが記者団に明らかにした。

国家情報院は死亡説が出る前の9月30日にも、同じ委員会で金氏の健康について報告していた。与野党の幹事を務める議員の説明によると、国家情報院は金氏の体重を140キロ台とみて心血管の病気のリスクが高いとしつつ、健康に異常の兆候はほとんどないと評価した。駆逐艦を視察した際に階段を駆け上がるなど動作に無理がなく、専属の医療チームがそばで管理しているというのが、その理由だった。

同じ報告では、今年の公開活動が121回に上り、前年の同じ時期と比べて30%増えたことも示された。

国家情報院は死亡説が出たあとの10月29日、同じ委員会の国政監査でも金氏の健康に触れた。与野党の幹事を務める議員によると、国家情報院は最近の公開活動から見て、基本的な健康の数値は正常の範囲で管理されているとみる一方、高脂血症があると推定していると説明した。

2014年・2020年の騒動との違い

金氏をめぐる重病説や死亡説は、今回が初めてではない。主な騒動を並べると次のようになる。

時期きっかけ再登場
2014年9〜10月9月3日の公演を最後に約40日間、国営メディアの報道から姿が消えた10月14日、住宅地の視察を報道。写真では杖をついていた
2020年4月4月11日の党の会議を最後に姿を見せず、15日の祖父・金日成主席の誕生日の行事も欠席5月1日に順川のリン酸肥料工場の竣工式に出席したと、翌2日に報道
2026年10月米在住の中国人活動家がXに死亡説を投稿10月19日の展示会視察を翌20日に報道

過去2回は、金氏が長く公の場に出なかったことが噂のきっかけだった。2020年には、肥料工場の竣工式に姿を見せるまでおよそ20日かかっている。

今回は事情が違う。10日の公演、11日の博物館の開館式と、北朝鮮メディアは直前まで金氏の公開活動を伝えており、本人が姿を消していたわけではなかった。噂を生んだのは1人の投稿で、それが海外の大衆紙に取り上げられて広がり、さらにAIで作られたとみられる画像まで出回った。

北朝鮮の国営メディアはその後も、丹東訪問や無人機の展示会など金氏の動静を伝え続けている。現時点で死亡を裏付ける情報はなく、韓国の国家情報院も死亡説を虚偽と判断した。ただし、北朝鮮が公開した写真の撮影日は、外部では独自に確かめられていない。

[文/構成 by ライター 飯田タツヤ]

寄稿者

飯田タツヤ
時事ニュースを中心に、社会の動きから芸能・スポーツの話題まで幅広く書いているWebライターの飯田です。ライター歴は6年。心がけているのは、発表や報道で確認できたことと、まだ分かっていないことを分けて書くこと。「何が起きて、暮らしにどう関わるのか」を最初に整理しています。休日はラジオを流しながらの散歩とサウナ。

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