智弁和歌山野球部の寮母・中谷千保子さん、インスタのフォロワー5万人超 300万回超再生の動画も

時間がない人向けの30秒で理解ゾーン
夏の甲子園で5年ぶり4回目の優勝を果たした智弁和歌山を、食事で支えた人がいる。中谷仁監督の妻で野球部寮の寮母を務める中谷千保子さん(42)だ。朝4時半に始まる台所の日常をインスタグラムで発信し、300万回を超えて再生された動画も出た。フォロワーは5万人を上回る。
一般アカウントで5万人超、再生300万回の動画も
第108回全国高校野球選手権大会は8月22日、阪神甲子園球場で決勝が行われ、智弁和歌山(和歌山)が健大高崎(群馬)を4-3で下した。8回に2ランで勝ち越されながら、その裏にスクイズで追いつき、暴投で勝ち越す粘り。2021年以来5年ぶり4回目の全国制覇となった。
その裏方を担った中谷監督の妻・千保子さんのSNSに、優勝を機に改めて関心が集まっている。千保子さんは野球部の寮母を務め、毎日の食事の支度や、選手に寄り添う思いをつづった動画を上げてきた。スポニチアネックスによると、300万回以上再生された動画があり、フォロワーは一般のアカウントとしては異例の5万人超に達する。これまで寮母は選手を支える裏方で、自ら発信する人は少なかった。
アカウントは「c_chihoko_n」。表示名は「CHIHOKO_N」で、寮の台所から甲子園へ選手を送り出す日々がそのまま残っている。大量のごはんを握る手元、選手たちに出す料理、そして厨房に立つ選手の姿が並ぶ。
関連記事:智弁和歌山が5年ぶり優勝、健大高崎を4-3で下す 夏の甲子園での優勝回数と決勝の経過を整理
4時半の食堂に監督が現れる朝
反響が大きかった投稿のひとつが、5月30日早朝の様子を伝えた動画だった。「4:30スタートのおむすびの朝」という言葉で始まる。6時20分出発のバスで食べられるようにと、ごま鮭、ツナマヨ、梅干しマヨの3種類を握る。
早朝の作業はいつも一人。ところがこの日、食堂に中谷監督が現れ、当たり前のように手伝うと、そのまま握ったおむすびを持って選手と一緒に出発していった。千保子さんは「やっぱり来てくれた」「状況を察知する力、気配り、目配りがすごい」とつづっている。
監督と選手の関係についても、千保子さんは自分の言葉で書いている。「1ミリの変化も、ちょっとした甘えも、手を抜いたことも、頑張っていることも。良いことも悪いことも全部」。だから選手はごまかせない。言い訳も通用しない。それでも「粗探しじゃなくて本当の愛情」と続けた。
この投稿には「映像見てるだけで泣けてくる」「監督ご夫妻が親と同じ気持ちで向き合ってくれているのが伝わってきます泣」「選手たちへの深い深い愛情を知り、智辯和歌山のファンになりました」といったコメントが並んだ。
正月休みを除く年360日、朝昼晩に補食まで
野球部寮「智翔館」ができたのは2019年9月。中谷監督の就任1年後で、指揮官の念願だった。それまで選手はアパートなどで下宿し、近所の食堂やコンビニで食事を済ませていた。その食生活を変えようと、監督は自費で寮を建てている。
中谷仁監督は智弁和歌山のOBで、1997年夏には主将として母校を全国制覇に導いた。卒業後は阪神、楽天、巨人でプレーし、2018年8月に母校の指揮官となる。2021年に続く今回の優勝で、プロ野球出身の監督としては史上初めて夏の甲子園で2度胴上げされた。その一歩目に、選手が毎日口にする食事があった。
「子どもたちを守ることと食事の面が一番でしたね」。千保子さんはスポーツ報知の取材にそう答えている。正月休みを除く年360日、栄養を考えた朝昼晩の3食に加えて補食も用意し、多い時で1日5食。ベンチに入れる食料まで準備した。
今夏の和歌山大会では、ミネラル原液に塩、はちみつ、カステラ、バナナ、冷凍パイナップル。暑さ対策の品をそろえて選手を送り出した。幼い我が子をおんぶしながら包丁を握る日もある。
積み上げた食事は数字にも表れる。智弁和歌山の平均体重83.05キロは今大会の出場校で最も重く、強力打線の土台になった。
「やってみて、食事を提供することがこれだけ大変なことだと初めて分かりました」。千保子さんはスポーツ報知にそう振り返り、それでも続けられた理由を「中谷仁のやりたいことを形にしていくのが楽しいから」と話した。
「卵焼き職人」楠本龍生の一発にフォロワーが沸いた
千保子さんの投稿には、キッチンを手伝う選手たちも登場する。中でも頻繁に顔を出していたのが”食事係”の楠本龍生内野手だ。料理好きで1年時からナインの食事作りを担い、朝から卵焼き機を二つ使って巻き続ける。その一連の動画がYouTubeに上がると、腕前の高さから「卵焼き職人」と呼ばれるようになった。
その楠本が8月20日の準決勝・横浜戦で試合を決めた。3回、最速157キロ右腕でドラフト1位候補の織田翔希から152キロの直球を捉え、右翼席へ勝ち越し3ラン。智弁和歌山は7-1で勝ち、決勝へ進んだ。
「卵焼きの子が活躍してうれしい」。フォロワーからはそんな書き込みが上がった。台所で見ていた選手が甲子園で打つ。日々の発信を追ってきた人だけが味わえる喜びだ。
千保子さんは甲子園初戦の11日を振り返る投稿でも、寮に残るサポート組の朝食、バスで食べる弁当、さらに出場メンバーが滞在する宿舎への差し入れを準備したと明かしている。添えられた一節に、この人の立ち位置がにじんだ。「甲子園で躍動する子供たちの姿はやっぱりうれしい。それと同時に、うちにいる全員が、この場所に立てるようになってほしい」
尾木直樹氏「自然体の日常を見せている」
なぜここまで届いたのか。
教育評論家の尾木直樹氏はスポニチアネックスの取材に「子供を寮に預けるという古い伝統と、SNSで発信するという現代的なコンビネーションが新しい。保護者の安心にもつながる」と指摘した。学校側のPR色が強い発信との違いにも触れている。「ややもすれば私学はスポーツを学校PRの発信にしがち。この方たちは、自然体の日常を見せているので好感を持たれたのでは。いいことも悪いことも見えてしまうSNSですが、良い使い方ですね」
100人規模の部員を抱える甲子園常連校が多いなか、智弁和歌山の部員は毎年40人前後で、寮では30人以上が生活する。2004年度に主将を務めた森本紘平さんがXに投稿した「智弁和歌山野球部 退部者がほぼいない理由」では「大半の雑用を監督がやるため、頑張らないわけにはいかない」「理不尽な上下関係がなく、野球だけが厳しい状態であるため余計な心労がない」などが挙がった。この投稿にも「寮母さん親のように親身に接してくれる」との書き込みが寄せられている。
千保子さんはヨガインストラクターや酵素浴施設の経営も担いながら、12歳の娘と2歳の息子を育てる。目の回るような忙しさだ。それでも「中谷は家のことをめっちゃします。家事、洗濯、育児も全部します」。監督が率先して動く姿を見て、選手も手伝ってくれることが増えた。変化を千保子さんは「たぶん、(みんな)いい男になると思いますね」と笑う。
夫について語る言葉には、迷いがなかった。「あれだけ真っすぐな人はいないと思います。子どもたちを日本一にしたいという基準はいつもぶれません」
日本一になった選手たちは23日午前、金メダルを首から下げて和歌山市内の学校に凱旋した。吹奏楽部が「ジョックロック」を演奏するなか、保護者や学校職員らが出迎えている。台所から始まった千保子さんの夏も、ようやく終わった。
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[文/構成 by スポーツライター 高瀬翔吾]







































































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