覆面ホラー作家・雨穴、ダガー賞は逃すも「変な絵」で世界へ 白い仮面クリエイターの経歴と躍進の背景

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覆面作家・雨穴の小説「変な絵」の英訳版が、英国のダガー賞翻訳部門で最終候補に残った。受賞は逃したが、日本のホラーミステリーが世界最高峰の賞の土俵に立った。白い仮面で正体を隠すクリエイターは、いま5大陸へ読者を広げている。
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白い仮面の作家、ロンドンの授賞式で受賞逃す
覆面作家・雨穴(うけつ)の小説「変な絵」の英訳版「Strange Pictures」が、英国推理作家協会(CWA)が贈るダガー賞の翻訳部門で受賞を逃した。英国推理作家協会が7月2日夜(日本時間3日朝)、受賞作を発表した。
翻訳部門を制したのは、フィンランドの作家アンティ・トゥオマイネンの「The Winter Job(冬の仕事)」だった。訳はデービッド・ハクストン、版元はオレンダ・ブックス。「変な絵」は6作品が並んだ最終候補の一つに残っていた。
雨穴はロンドンで開かれた授賞式に出席した。終了後の取材に「受賞を逃してしまったのは残念だが、この場に参加できたことは作家人生において貴重だ」と、興奮した様子で語った。
ダガー賞は1955年に創設された。米国のエドガー賞と並び、推理小説の最高峰とされる賞だ。英語以外で書かれた作品を対象にした翻訳部門を含め、部門は全部で13ある。
9枚の絵が世界へ、「変な絵」とは何か
「変な絵」は、9枚の奇妙な絵をめぐるミステリーだ。オカルトサークルに入る大学生が、「あなたが犯した罪」というメッセージとともにブログに載った絵を見つける。そこから物語が動きだす。
一見すると無関係に見える絵が、やがて一つの真実へとつながっていく。読者自身も絵の謎を考えながら読み進める構造が特徴だ。原作は双葉社から2022年10月に発売された。英訳版「Strange Pictures」は訳者ジム・リオン、英プシュキン・ヴァーティゴから2025年1月に出版された。
シリーズの世界累計発行部数は270万部を突破した。電子版とコミカライズを含む数字だ。翻訳出版は5大陸39の国と地域で決まっている。
海外での評価は英国にとどまらない。フランスでは大手小売FNACの「今月の本」(2025年2月)に選ばれた。ドイツでは公共ラジオ局のミステリー・ベストリスト2025年5月版で1位となった。英国の大手書店チェーン、ウォーターストーンズが選ぶ2025年「Book of the Year」の最終候補にも入っている。
前年は日本人初受賞、続いた挑戦
日本のミステリーがこの賞で存在感を示すのは、これが初めてではない。前年の2025年、翻訳部門では王谷晶の「ババヤガの夜」が日本人作家の作品として初めて受賞した。その翌年、雨穴の「変な絵」が最終候補に食い込んだ。
最終候補までの道のりも険しかった。1次候補の10作品には、伊坂幸太郎の「シーソーモンスター」も残っていた。だが最終候補の6作品には届かなかった。同じ日本発の作品がしのぎを削る中で、「変な絵」は最後まで勝ち残った。
雨穴は、白い仮面と全身黒タイツ姿で正体を隠すウェブライターだ。YouTuberとしても活動し、チャンネル登録者数は200万人を超える。動画の総再生回数は2億回を突破した。デビュー作「変な家」シリーズ(飛鳥新社)は映画化され、大ヒットを記録している。
最終候補入りの知らせを受け、雨穴は自身の公式サイトでコメントを出した。「朝、寝起きでSNSを開き『雨穴、イギリスの権威ある賞にノミネート』というニュースが目に飛び込んできました」。そう書き起こしながら、「夢かと思いましたが、どうやら本当のようです」と続けた。読者と関係者への感謝もつづっている。
SNSでも広がった反応
授賞式のあと、雨穴は自身のXに写真つきで投稿した。「ダガー賞に出席してきました 受賞は逃しましたが」とつづり、英国推理作家協会のミステリー賞に「変な絵」がノミネートされ、渡英した経緯を報告している。覆面姿のまま海外の授賞式に立った投稿には、ファンの反応が相次いだ。
日本のニュースメディアも動画やニュース番組でこの話題を伝えた。世界最高峰のミステリー文学賞で、覆面作家が翻訳部門の受賞を惜しくも逃したという事実は、幅広い層の関心を集めた。
「変な地図」も好調、次の一手はどこへ
雨穴の勢いは受賞レースの結果だけで測れない。2025年10月31日に発売した最新作「変な地図」は、初版20万部に発売前重版5万部を加えた計25万部でスタートした。発売から1か月で累計70万部を突破している。
「変な地図」は、古地図に隠された謎に挑むミステリーだ。シリーズで人気の「栗原さん」が初めて主人公を務める。オリコン上半期「本」ランキング2026の文芸書部門で1位となり、2026年上半期でもっとも売れた文芸書となった。すでに世界11の国と地域から翻訳オファーが届いている。
「変な絵」への海外メディアの取材依頼も続いた。AP通信やワシントン・ポスト、英ガーディアン、英テレグラフなどが著者にインタビューを申し込んでいる。読書に不慣れな読者でも読みやすいように図版を多く使い、絵を手がかりに謎を解く構造が、海外の読者や書き手から高く評価された。
賞のトロフィーは持ち帰れなかった。それでも、SNS発の日本人作家が世界最高峰の賞の最終候補に立った意味は小さくない。白い仮面の作家は、次の物語で再び世界の読者と向き合う。
[文/構成 by 橘すろべ]































































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