北口榛花、68m92の日本新でアルティメット選手権の初代女王 自身の記録を3年ぶりに1m54更新

時間がない人向けの30秒で理解ゾーン
陸上女子やり投の北口榛花(28)=JAL=が現地時間9月12日夜(日本時間13日未明)、ハンガリー・ブダペストで行われた第1回「世界陸上アルティメット選手権」で68m92を投げて優勝した。2023年9月に自身が出した67m38を1m54更新する日本新記録で、世界歴代10位タイ。新設された大会の初代女王となり、優勝賞金15万ドル(約2300万円)を手にしている。
1投目は3位、2投目で首位に立った
女子やり投は大会2日目の夜のセッションで行われた。先に試合を動かしたのは、中国の18歳、嚴子怡だった。1投目に68m05を投げてトップに立ち、北口の1投目は61m15で3位にとどまる。
北口は試合後、1投目について「珍しく緊張して力んで、斜めに飛んでしまいました」と明かしている。2投目の前には、コーチのヤン・ゼレズニー氏から、やりの向きと自分の向きを合わせるよう助言を受けた。
迎えた2投目。リリースと同時に大きな声を上げ、放たれたやりは70mラインの手前に突き刺さった。記録は68m92で、一気に首位へ浮上する。
「すんなり投げられたなって。飛距離はいつもわからないのですが、すごく飛んだなって言うのはわかりました」。北口は投げた瞬間の感覚をそう語った。
3投目と4投目で記録は伸びなかったが、ほかの選手も68m92を超えられず、そのまま逃げ切った。本人は、記録と勝負のチャンスは狙えるときに狙うとコーチに言われて臨んだ後半の2投を「悲惨でした」と反省している。
| 順位 | 選手(国・地域) | 記録 |
|---|---|---|
| 1位 | 北口榛花(日本) | 68m92(日本新) |
| 2位 | 嚴子怡(中国) | 68m05 |
| 3位 | フロル・ルイス(コロンビア) | 64m84 |
| 4位 | マッケンジー・リトル(オーストラリア) | 63m37 |
| 5位 | アドリアナ・ビラゴシュ(セルビア) | 61m37 |
2位の嚴子怡は、2投目で右足首を気にする様子を見せて63m95にとどまり、3投目以降の試技を見送った。今季は5月のダイヤモンドリーグ厦門大会で世界歴代2位、アジア新記録の71m74を投げ、この大会の前まで無敗を続けていた選手だ。その連勝は、ブダペストで止まった。
3年ぶりの日本新は世界歴代10位タイ
これまでの日本記録67m38は、北口が2023年9月8日のダイヤモンドリーグ・ブリュッセル大会で投げたものだった。そこから3年、自己記録は動いていなかった。
68m92は、2018年にキャスリン・ミッチェル(オーストラリア)が投げた記録と並ぶ世界歴代10位タイ。アジア歴代でも嚴子怡の71m74に次ぐ2位にあたり、北口が長く目標にしてきた呂會會(中国)の前アジア記録67m98も上回った。
それでも、本人は満足していない。「まだ完璧じゃないと思っているので、また、より先を目指したいと思います」。フィニッシュの局面でもう少し上へ、遠くまで押し出せるとコーチから言われていることも明かし、課題を口にした。
各種目8人、試技は最大4回の新大会
アルティメット選手権は、世界陸連が新たに立ち上げた国際大会だ。9月11日から13日までの3日間、ブダペストの国立陸上競技センターで28種目を行い、賞金総額は1000万ドルに上る。個人種目の賞金は1位15万ドル、2位7万5000ドル、3位4万ドル。今後は2年に1度の開催を予定しており、次回は2028年となる。
出場できるのは、限られた選手だけだ。2024年パリ五輪の優勝者、2025年東京世界陸上の優勝者、2026年ダイヤモンドリーグの各種目の覇者に出場権があり、残りの枠は世界ランキングの上位選手で埋まる。
フィールド種目の出場者は各8人で、予選はない。やり投を含む投てき種目と走幅跳・三段跳では、1回目と2回目は8人全員が試技を行い、3回目は上位6人、最後の4回目は上位4人だけに試技が与えられる。通常の大会の6回試技より2回少なく、序盤の1投の重みが増す仕組みだ。北口が2投目で出した記録が、そのまま優勝につながった。
パリの金メダルから東京の予選落ちまで
ブダペストは、北口にとって縁の深い街でもある。2023年の世界陸上ブダペスト大会で最終6投目の逆転で初めて世界一となり、翌2024年のパリ五輪でも金メダルを手にした。
だが、その後は苦しい時間が続く。2025年は右肘を痛めてシーズン中に離脱し、7月の日本選手権を欠場。地元開催となった9月の東京世界陸上では、予選で60m38にとどまって全体14位となり、通過記録の62m50にも上位12人にも届かず決勝進出を逃した。
立て直しのため、今季から迎えたのが、男子やり投の世界記録保持者で五輪3連覇のゼレズニー氏だった。投てきフォームは一から作り直され、シーズン序盤は記録が伸び悩む時期もあった。北口自身も、シーズンが始まる前は日本記録を口にできる状態ではなかったと話している。
本人によると、考えが整理できてきたのは夏ごろだった。「怖がらずに走ることと、やりを投げたい方向に投げること」に集中して臨んだこの日、3年分の足踏みを一投で取り返した。
長年ともに競ってきた4位のリトルも、試合後に「常にプレッシャーに打ち勝つ能力が素晴らしい。ここ数年はケガもあったのに、着実にステップアップしてくる」と、ライバルの復活を喜んだ。
次の舞台は地元・名古屋のアジア大会
初めて世界一になった思い出のスタジアムで、再び頂点に立った。2023年の世界陸上、2024年のパリ五輪に続く3度目の世界一だ。北口は、ケガをして自国開催の東京世界陸上で結果を出せなかった昨季を振り返り、胸を張って「帰ってきた」と言える結果を出せて良かったと語った。
次に控えるのは、19日に開幕する愛知・名古屋のアジア大会だ。ブダペストで途中棄権した嚴子怡との再戦が予想され、北口も「彼女(嚴子怡)も甘い相手ではないと思うのでまた準備をして日本のみなさんの前で良い投てきができるように頑張ります」と気を引き締める。
70m台、そしてアジア記録。28歳の視線は、68m92のさらに向こうにある。
[文/構成 by スポーツライター 久遠(KUON)]





































































コメントはこちら