ICC赤根智子所長は何をした?なぜ米制裁?会見で「受ける理由ない」と反論 経歴と経緯を時系列でまとめる

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ICC(国際刑事裁判所)所長の赤根智子氏が、2026年8月18日にトランプ米政権から金融制裁の対象に指定された。赤根氏は8月26日の記者会見で「制裁を受ける理由は全くない」「ICCは決して負けない」と反論し、日本を含む加盟国に支援を求めた。検察官として40年以上のキャリアを持ち、プーチン大統領やネタニヤフ首相への逮捕状発付に関わった赤根氏の経歴と、制裁に至る経緯を時系列で整理する。
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米制裁に「決して負けない」──8月26日の記者会見
2026年8月26日午後5時過ぎ、赤根智子氏はオランダ・ハーグから日本記者クラブのオンライン記者会見に臨んだ。
「制裁を受けるような理由は全くない」。赤根氏はそう断言した。「できる限り抵抗する。ICCは決して負けない」と続け、重大な国際犯罪の被害者にとってICCは「最後の希望」だと訴える。ICCへの制裁は「法の支配の危機」だと表明し、日本を含む加盟国に支援を要請した。
日本に対しては「加盟国は日本をリーダーとして見ている」と指摘し、「法の支配を守り抜く努力をしてほしい」と呼びかけた。高市早苗首相が「日本の立場と相いれない」と発言したことには「私やICCに大きな力を与えてくれる」と謝意を示す。
では、赤根智子とは何者で、なぜアメリカに制裁されたのか。
東大卒の検察官が国際司法の道へ──赤根智子の経歴
赤根智子氏は1956年6月28日、愛知県名古屋市に生まれた。愛知県立旭丘高等学校を卒業後、1980年に東京大学法学部を卒業する。
1982年4月、横浜地方検察庁で検事としてのキャリアが始まった。名古屋、仙台、東京と各地の検察庁で勤務し、1989年には休職してアメリカへ私費留学。ジャクソンヴィル州立大学大学院の刑事司法コースを修了した。
帰国後は検事に復帰し、札幌地方検察庁公判部長、法務省法務総合研究所国際協力部長、東京高等検察庁検事などを歴任する。2010年には最高検察庁検事、同年に函館地方検察庁検事正に就任。2013年に国連アジア極東犯罪防止研修所(UNAFEI)所長を務め、国際的な刑事司法の分野で経験を積んだ。
2016年に外務省国際司法協力担当大使兼最高検察庁検事となり、国際舞台への布石が打たれる。2017年12月にICC裁判官選挙に当選し、翌2018年3月にICC判事に就任した。
プーチンに逮捕状を出し、ロシアに指名手配される
2022年2月、ロシアによるウクライナ侵攻が始まった。ICCのカリム・カーン検察官は多くの国からの付託を受け、ウクライナ領内で起きたとされる戦争犯罪の捜査を開始する。
2023年2月22日、カーン検察官はプーチン大統領とマリヤ・リボワベロワ大統領全権代表(子どもの権利担当)に対する逮捕状を、赤根氏が所属する予審第二部に請求した。赤根氏を含む裁判官3名は証拠を検討し、ウクライナからの子どもの連れ去りという戦争犯罪にプーチン氏らが関与したと信じる合理的な理由があると判断。3月17日、逮捕状を発付した。
ロシアはすぐに報復に動いた。3月20日にカーン検察官と裁判官らに対する刑事手続きを開始し、7月27日にはロシア内務省が赤根氏を指名手配する。NHKが「ロシアがICC日本人裁判官を指名手配」と速報で報じた。
赤根氏は当時、休暇で日本に一時帰国中だった。自宅でテレビの速報を見て指名手配の事実を知ったという。著書の中で「とうとう来たか」という思いだったと振り返っている。
ICC所長就任、そしてネタニヤフ首相への逮捕状
2024年3月11日、赤根氏はICC判事18名の秘密投票で選ばれ、日本人として初めてICC所長に就任した。外務省も「我が国が推薦した判事の所長選出を歓迎する」と談話を出している。
同年11月21日、ICCはイスラエルのネタニヤフ首相とガラント前国防相らに対し、ガザ紛争を巡る戦争犯罪の疑いで逮捕状を発付した。
プーチン大統領とネタニヤフ首相。ICCが二つの戦争の当事国トップに逮捕状を出したことで、赤根氏率いるICCはロシアとアメリカの双方から敵視される立場に追い込まれた。
トランプ政権の「ICC解体」宣言と制裁の発動
アメリカはICCの非加盟国だ。トランプ大統領は第1期政権時からICCを「脅威」と呼んできた経緯がある。
2026年7月、ルビオ国務長官は「ICCをれんがを一つずつ外すように解体していく」と宣言し、加盟125カ国に脱退を呼びかけた。判事や主任検察官を次々と制裁対象に加え、赤根氏を含む判事の制裁指定前の時点ですでに少なくとも11人のICC職員に制裁を科していた。
8月18日、ルビオ国務長官が赤根氏とセネガル出身のアブドゥライエ・セエ上級裁判弁護士を新たに制裁対象に指定すると発表した。ICCを「腐敗し、政治化された裁判所」と非難し、「国家主権に対する攻撃を容認しない」と強調する。BBCの報道によると、制裁措置には資産凍結、渡航禁止、アメリカ企業からのサービス利用制限が含まれる。
ICC判事18人中9人が制裁対象になるという前代未聞の事態となった。
クレジットカード停止、Gmail使えず──制裁の影響
制裁は日常生活を直撃した。
赤根氏は8月23日の産経新聞電話インタビューで「米社VISAのクレジットカードは日本で発行したものを含めて使えないと思う」と明かした。私用のGmailも使えなくなり、アマゾンのサービスからも締め出されている。日本テレビの報道では「アレクサ(アマゾンの音声アシスタント)が反応しなくなった」とも伝えられた。
一方、ICCの業務について赤根氏は「米マイクロソフトから欧州拠点のシステムへデータ移転を進めており、日常業務に支障はない」と説明。欧州では複数の銀行が制裁を受けたICC職員を支援し、取引を継続しているという。
日本政府の対応と「弱腰」批判
制裁発表後、日本政府は当初「大変残念」という表現にとどまった。これに対し与野党から「弱腰」との批判が相次ぐ。
8月24日、超党派の「人権外交を超党派で考える議員連盟」が総会を開催。石破茂前首相も出席し、トランプ政権の措置を「最も強い言葉で非難し、日本政府に行動を求める」とする声明を採択した。朝日新聞によると、声明では「攻撃にさらされるICCの重要性を改めて世界に訴える言葉も、日本が送り出した所長を守り抜く意思を示す言葉もなかった」と政府対応を批判。ICCの本部があるオランダが即座に「制裁を認めない」と表明したのと対比し、「日本の反応は段違いに弱い」と指摘した。
8月25日、高市首相は「今回の措置は日本の立場と相いれるものではない」と表現を一段強めた。「弱腰との批判は当たらない」と反論し、赤根氏を制裁対象にしないよう「累次にわたって様々なレベルで、ギリギリまで働きかけを続けてきた」と説明している。
欧州からの連帯、米国内では提訴も
国際社会ではICCへの支持表明が広がる。
オランダのベーレンドセン外相は「オランダは制裁を認めない。裁判所と職員を全面的に支持する」とXで表明。ドイツ外務省も「ICCと赤根所長を支持する」と明言した。
アメリカ国内でも反発が起きている。ヒューマン・ライツ・ウォッチなど4つの人権団体が8月11日、ICC解体に向けたトランプ政権の取り組みを違憲として提訴。6月にはICC判事3名も制裁は違法だとしてニューヨーク連邦裁判所で政権を訴えた。BBCの報道によると、判事らは訴えの中で、制裁は「判事を罰し、強要することを目的として超法規的な圧力をかけるもの」だと主張している。
著書は全国で完売、文藝春秋が緊急重版を決定
赤根氏が2025年6月に刊行した著書”戦争犯罪と闘う 国際刑事裁判所は屈しない”(文春新書)が、制裁報道をきっかけに全国の書店で完売した。文藝春秋は緊急重版を決定し、首都圏の書店には9月4日前後、それ以外の地域には9月7日前後に届く見通しだ。
赤根氏は重版に際して文藝春秋にコメントを寄せた。「今回の私に対する制裁は、ある程度予期していたことで驚きはない。重要なのは、これを国際的な法の支配の終焉の始まりとさせないこと。日本と日本の皆様の支援が重要な鍵となるだろう」。
Change.orgでは赤根氏を支援する署名活動も立ち上がっている。
赤根智子とICCを巡る時系列まとめ
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 1956年6月 | 愛知県名古屋市に生まれる |
| 1980年3月 | 東京大学法学部卒業 |
| 1982年4月 | 検事任官(横浜地方検察庁) |
| 2016年4月 | 外務省国際司法協力担当大使に就任 |
| 2018年3月 | ICC判事に就任 |
| 2023年3月17日 | 予審部裁判官としてプーチン大統領への逮捕状発付を決定 |
| 2023年7月27日 | ロシア内務省が赤根氏を指名手配 |
| 2024年3月11日 | 日本人初のICC所長に就任 |
| 2024年11月21日 | ICCがネタニヤフ首相らに逮捕状を発付 |
| 2026年7月 | ルビオ米国務長官が「ICCを解体する」と宣言 |
| 2026年8月18日 | トランプ政権が赤根氏を金融制裁の対象に指定 |
| 2026年8月21日 | 赤根氏がコメント発表「法の支配の終焉の始まりとさせない」 |
| 2026年8月24日 | 超党派議連が政府対応を批判する声明を採択 |
| 2026年8月25日 | 高市首相「日本の立場と相いれない」と表現を強化 |
| 2026年8月26日 | 赤根氏が記者会見「決して負けない」 |
ロシアにもアメリカにも屈しない70歳
検察官としてのキャリアは40年を超える。ロシアからは指名手配され、アメリカからは金融制裁を受けた。それでも赤根氏は「できる限り抵抗する」と語り、法の支配を守る姿勢を崩さない。
赤根智子は何をしたのか。戦争犯罪を裁く国際司法のトップとして、プーチン大統領やネタニヤフ首相にも法の前では例外はないと示した。その結果、二つの大国から標的にされたが、退く意思はないと会見で繰り返した。
ICCへの最大の分担金拠出国でありながら、対応の「弱さ」を指摘される日本。赤根氏の闘いは、日本がどこまで「法の支配」を守れるのかという問いを突きつけている。
[文/構成 by さとう つづり]





























































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