「毎日、倒される夢を見ていた」武尊が引退会見で吐露した本音──”死んでも倒れるかと思った”ロッタン戦の真実

時間がない人向けの30秒で理解ゾーン
元K-1三階級制覇王者の武尊(34)=team VASILEUS(チーム ヴァシレウス)=が4月29日、有明アリーナで行われたONEフライ級キックボクシング暫定王座決定戦でロッタン・ジットムアンノン(28)に5回2分22秒TKO勝ち。現役ラストマッチで昨年の雪辱を果たし、王座戴冠で30年の格闘家人生に幕を引いた。試合後の会見では「毎日倒される夢を見ていた」と本音を告白した。
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4度のダウン奪い5回TKO、王座戴冠で有終の美
元K-1三階級制覇王者の武尊(34)=team VASILEUS(チーム ヴァシレウス)=が4月29日、有明アリーナで行われたONE Championship「ONE SAMURAI 1」のメインイベントで、ONEフライ級キックボクシング暫定世界王座決定戦としてロッタン・ジットムアンノン(28)=タイ=と対戦した。結果は5回2分22秒、TKO。武尊が計4度のダウンを奪い、現役最後の試合で王座を獲得した。
2025年3月に同じ相手に1回80秒でKO負けを喫していた武尊にとって、因縁のリベンジマッチ。同年11月16日の再起戦(デニス・ピューリック戦/2RTKO勝ち)の後、次戦での引退を宣言し、ラストマッチの相手にロッタンを指名していた。約1万5千人収容の有明アリーナのメインアリーナは満員の観客で埋まった。
午後9時31分にゴングが鳴った。1回は両者ともローキックの差し合いで様子をうかがう静かな立ち上がりとなる。動いたのは2回だった。打ち合いの展開から武尊のカウンターの左フックがロッタンをとらえ、最初のダウンを奪った。ロッタンはスリップを主張したものの、レフェリーはダウンと判定。立ち上がった相手に武尊は前に出てパンチを連打し、2度目のダウンも奪った。
3回、ダメージを残したロッタンに武尊は笑顔で「打ってこい」とアピール。互いに消耗戦の様相を呈したまま終盤へ突入した。4回はロッタンが圧力を強めたが、会場の声援を背に武尊も打ち返す。そして最終回、武尊の右フックで3度目のダウン。立ち上がったロッタンにラッシュをかけ、さらにダウンを奪ったところでレフェリーが試合をストップした。
「弱音吐きたくないから言わなかった」悪夢にうなされた日々
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試合後の記者会見に登壇した武尊は、開口一番「本当にうれしいの一言しかない。まだ実感がない」と切り出した。34歳まで現役を続けるとは思っていなかった、体も持たないかもしれないと考えていた、と振り返りながら、最後にタイトルマッチを組んだONE会長のチャトリ・シットヨートン氏への感謝を口にした。
一方で、試合前には周囲に明かさなかった本音も吐露した。
「本当に試合前は弱音を吐きたくないんで言わなかったですけど、また倒される、自分が失神している夢とか、足の骨が折れている夢とか、毎日見ていて本当に怖かったんですよ。みんなの期待を裏切ってしまうかもしれないと思っていた。だから、よかった、生きて帰ってこれてよかった、という感じです」
2025年3月23日のロッタン戦(ONE 172・さいたまスーパーアリーナ)では、試合開始から80秒で左フックを浴びてマットに沈んだ。その記憶は1年にわたって武尊を夜ごと苦しめ続けた。
前回敗戦時の身体状態についても、初めて詳細を語った。「言い訳はしたくないが、本当に戦える状態ではなかった。胸骨と肋骨が折れていて、頭をガードしないといけないのにお腹を守らなきゃと自然に動いてしまっていた」。ガードが下がった理由には、そうした背景があった。
“死んでも倒れるかと”覚悟の一戦、笑顔の裏に30年の重み
今回は事前にロッタンの動きを徹底的に研究したという。「ブンブン振り回しているように見えて、達人のような動きをする。前回の対戦ですごく感じた」。パンチの威力を理解した上で、あえて受ける場面もあった。
第5ラウンド、武尊はノーガードで「打ってこい」とロッタンに挑発し、パンチをもらった。その覚悟を、会見ではこう明かした。
「最後なので、みんなの期待を裏切れない、死んでも倒れるかと思ってパンチをもらいました」
試合中に笑顔を見せた理由を問われると「楽しかった。殴り合いたいなという感じだった」と答え、続けた。「勝ちたい気持ちはもちろんあったが、5ラウンドで格闘技人生が、小学校から30年近くやってきて本当に終わってしまうんだと思ったら、ロッタンのパンチをもっともらっておきたいなという気持ちと戦っていた」
勝因については「ONEに来て自分の弱さをちゃんと認識できたことが大きい」と分析した。K-1時代は「絶対勝てる」と思って戦っていたが、ONEで「こんな弱いところがあるのか」と多くの発見があったという。「自分の弱さや、体がどんどん壊れていく部分も含めて認識した上で、自分に合った戦い方や体作りを最後にバチンとはめられた」
試合中の冷静さの理由も語った。興奮を抑え、自分が強かった時の戦い方を思い出すことを意識した。「ロッタンだから思い切り殴り合いたかったが、丁寧に削ってから殴ろうと意識した。応援してくれる人にベルトを届けたかったので、自分と戦いました」
リング上では異例の肉声、K-1・RISE・KNOCK OUTに団結呼びかけ
試合後のリング上で、武尊はマイクを使わず地声でファンに語りかけた。1万人が見守る中、4分近くにわたるメッセージ。会見ではその真意を明かした。
「自分は格闘技の才能が本当になく、小学校から始めて勝てなかった。運動神経も普通。それでも強くなって結果を残せた。夢を持つ人は絶対に諦めないでほしい」。天才やエリートと見られがちな自身について「本当にそうではなく、勝てなかった。それを伝えたかった」と語った。
もう一つ、どうしても伝えたいことがあった。日本格闘技界の現状への危機感だ。
武尊はK-1スターの魔裟斗に憧れてプロを目指したが、魔裟斗の引退後、日本格闘技界は一度低迷期を迎えた。K-1が表舞台から消え、苦しい時期を過ごしたという。
「自分が引退することで、魔裟斗さんが辞めた後のように大舞台が日本から無くなってしまうのは悲しい。次のファイターが出てくるまで、ファンも含めK-1、RISE、KNOCK OUTなど、あらゆる団体で一緒に格闘技界を盛り上げよう」
リング上でも「どこの団体が強いんじゃないんです。格闘技が強いんです」と叫んだ。団体の壁を越えて業界全体を底上げしたい、という訴えだった。
敗れたロッタンへの言葉、那須川天心の応援に「戦友として嬉しかった」
敗れたロッタンについても武尊は言葉を残した。「心がおそらく折れている。それにすごく共感できて悲しい。ただ彼は世界チャンピオンクラスの選手で、再びハングリーになってトレーニングと学びに打ち込めばまたトップに戻れる」
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前日には、那須川天心が大会を独占ライブ配信するU-NEXTのYouTube格闘技チャンネルのインタビュー動画で武尊へのエールを送っていた。「ちらっと見た」と明かした武尊は、「ああいうインタビューで僕のことをきちんと喋ってくれたことはなかったと思う。応援してくれたのも嬉しかったし、最後に勝ってほしいと言ってくれたのも、戦った戦友として嬉しかった」とコメント。「天心選手もこれからボクシングでもっと活躍していくと思う。ボクシング、キックボクシング、MMA関係なく、みんなで盛り上げたい」と語った。
“現役最後”でも熱は止めない、引退後の生活
武尊にとって格闘技とは何だったのか。
「格闘技に出会っていなかったら本当にろくでもない人生だった。まだ34歳だが、こんな最高な人生にしてくれたのは格闘技のおかげ。格闘技に感謝しかない」
引退後の生活について問われると、こう答えた。「ジムには行くと思う。いろいろ体が壊れている部分もあるので、それを直しつつ、生活に支障が出ない程度に格闘技をやろうかなと思っている」
「やり切ったか、もう一度やりたいか」という問いには、「やれるならやりたいが、本当に今日このリングに立てるかどうかも分からないぐらい、体が持つのかという不安の方が大きかった。今日で使い切ったかなという感じです」と語った。
最後にマイクを取ったチャトリCEOは「武尊選手、そしてすべての偉大な日本人ファイター、日本史上最高の戦士たちに感謝する。今夜、我々は日本の歴史を、日本のヒーローを称え、国中に火をつけた」と述べ、「これからどんどん日本に格闘技を復活させたい」と日本市場への決意を示した。
2011年9月のプロデビューから5331日。プロ戦績51戦46勝(28KO)5敗。東京ドームでの那須川天心戦、K-1史上初の三階級制覇、そして最後はONEの王座戴冠。武尊は腰に巻いたベルトとグラブをリング中央に置き、座礼してリングを去った。
[文/構成 by 久遠(KUON)]





























































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