ナフサ不足で何がなくなる?”影響が出そうなもの”を調べたら生活が石油まみれだった件

時間がない人向けの30秒で理解ゾーン
中東情勢の悪化でナフサ不足が現実の店頭に届き始めた。カルビーが主力14品の包装を白黒に切り替え、高知名物「ミレービスケット」の一部商品が4月23日から生産停止。注射器、断熱材、納豆の容器まで影響が広がる。
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カルビーが14品を白黒包装に、ミレービスケットは生産停止
カルビーは5月12日、「ポテトチップス」や「かっぱえびせん」「フルグラ」など主力14品の包装を、5月25日以降の出荷分から順次、白と黒の2色に切り替えると発表した。理由は中東情勢の悪化に伴うナフサ不足で、印刷インクや有機溶剤の調達が不安定になったためだ。
13日には、高知名物「ミレービスケット」の一部商品が生産停止していたことが判明する。製造・販売する野村煎豆加工店(高知市)によると、対象は「ミレー超ビッグパック」。大袋の中に30グラム入りの小袋が16袋入った大容量サイズで、4月23日にチャック付き大袋の在庫が切れた。6月1日からは「4連ミレービスケット」のしょうが味など4種類も生産を一時停止する。
包材メーカーからは「中東情勢の影響で袋の素材や印刷インクの仕入れが不安定」と説明され、納品予定は6月。担当者は朝日新聞の取材に「政府の説明と現場の危機感には隔たりがある。主力商品にも影響する可能性を懸念している」と語った。
なぜナフサが足りない?日本の調達は中東依存76%
ナフサは原油を蒸留して得られる粗製ガソリンで、ガソリンに似た透明な液体だ。これを高温で分解するとエチレン、プロピレン、ブタジエンなどの基礎化学品になり、プラスチックや合成繊維、ゴム、医薬品の原料へと姿を変える。
日経新聞や石油連盟の資料、桃山学院大学の小嶌正稔教授の解説をまとめると、日本のナフサ調達構造はこうだ。
| 調達ルート | 比率 |
|---|---|
| 国内の製油所で原油から精製(原油の多くは中東産) | 約40% |
| 中東から直接輸入 | 約40% |
| アメリカ・韓国など中東以外から輸入 | 約20% |
国内精製分の原料原油も90%が中東産とされ、合算すると実質的な中東依存度は76%前後に及ぶ。輸入元の韓国もすでに輸出を絞り込み、調達先は細る一方だ。
きっかけは中東情勢の緊迫化。出光興産は3月、エチレン製造停止の可能性を取引先に通知。三菱ケミカル、三井化学、出光興産など主要メーカーは2026年3月以降、エチレンの生産抑制を続けている。建材大手のフクビ化学工業は3月25日、4月1日以降に全製品の供給制限と価格改定を実施すると発表した。
帝国データバンクの調査では、ナフサのサプライチェーンに関わる製造業は全国4万6741社。集計対象とした全製造業約15万社の3割に達する。
注射器、納豆、ハンバーガー包装紙まで…生活は石油まみれ
ナフサから作られる製品を並べると、生活用品のほぼ全域が石油由来だと分かる。需要の64%が合成樹脂、5%が塗料、残りは合成繊維、合成ゴム、洗剤・界面活性剤、医薬品原料に回る。
| 分野 | 主な製品 | 現時点で確認された影響 |
|---|---|---|
| 食品包装 | ポテトチップス袋、ビスケットの大袋、スパゲティの結束テープ、納豆容器 | カルビー14品が白黒化、ミレービスケット一部生産停止、ミツカン納豆4品休止、日清製粉ウェルナ結束テープ無地化 |
| 医療 | 注射器、輸液バッグ、カテーテル、手術用グローブ、人工透析チューブ | ロイター報道で4月半ば〜8月にかけて出荷困難の可能性。茨城県保険医協会は県備蓄資材の放出を要望 |
| 住宅・建材 | 断熱材、塩ビ管、樹脂サッシ、塗料、シンナー | フクビ化学全製品供給制限、断熱材で40〜50%の価格上昇、関西ペイントがシンナー類を50%以上値上げ |
| 自動車・家電 | バンパー、ダッシュボード、配線被覆、家電筐体 | エチレン生産抑制で部品供給網に懸念 |
| 日用品 | ポリ袋、ラップ、洗剤、紙おむつ、化粧品容器、合成繊維の衣類 | 包装資材調達難で値上げ・販売制限の動き |
| 紙加工品 | ハンバーガー包装紙などの「塗工紙」 | 該当業種の80.1%がナフサ依存 |
ミツカンは5月1日、容器や包装資材の調達困難を理由に納豆4品目の販売を休止。日清製粉ウェルナは「マ・マー スパゲティ」の結束テープを4月から無地に切り替えた。医療現場でも注射器やゴム手袋の品薄感が広がる。
ナフサは原油精製の過程でガソリンなどと同時に作られる「連産品」で、ナフサだけ狙って増やすことができない。さらに、原油は備蓄で賄えてもナフサは備蓄が極めて少ない。業界推計でナフサ専用在庫は20日分程度しかない。
政府は「足りている」、現場は「届かない」
高市総理は4月30日、「ナフサ由来の化学製品の供給は、年を超えて継続できる見込み」と発言。佐藤官房副長官も5月12日、「日本全体として必要な量は確保されている」と強調した。
だが、現場の温度差は大きい。
「本当に大丈夫なのかどうか、もう全く判断ができない状況です」。MBSの取材に応じた小嶌教授はそう指摘する。
ナフサの用途はポリ袋から注射器まで多岐にわたり、「どこで不足しているのか、どこが足りているのか把握するのが非常に難しい」。全体量が足りていても、特定の製品を作るための「材料の1つ」が欠けるだけで製造ラインは止まる。
「全体として足りているということと、品物がちゃんと届くということは同じではない」
(小嶌教授)
産経新聞によると、TOPPANホールディングスは「食品包材用を含めた印刷用インクが、枯渇したり緊急性を要する状況には無い」と説明。湖池屋、東ハト、ヤマザキナビスコは現時点でパッケージ印刷の対応は予定していないと答えた。同じ業界でも、企業規模や発注タイミングで状況が割れる。
カルビーのような大手は3カ月前に塗料を発注するため、不足の兆しに早く気づける。中小は発注期間が2週間〜1カ月で、気づいた時には品物がない。小嶌教授は7〜8月頃に製品不足が表面化すると予測する。
「お葬式みたい」…SNSが揺れる、ガリガリ君は無事か
カルビーの白黒パッケージ発表後、SNSでは戸惑いと驚きが広がった。東洋経済オンラインや集英社オンラインは、Xで「気持ち悪い」「ポテトチップスのお葬式っぽい」「お葬式みたい」「食欲そがれる」といった声が上がっていると報じた。一方で「かっこいいかも」と肯定する反応もあり、賛否は分かれた。
ミレービスケットの生産停止が伝わると、ファンは別のショックに見舞われる。「中小企業にも来るのか」「あの黄色い袋が消えるなんて」と、地元・高知だけでなく全国から不安の投稿が相次いだ。
5月13日にはカルビー・ポテチの「白黒パッケージ」と称する偽画像がSNSで拡散。西友公式Xが注意喚起する事態にも発展した。話題の余波が早くも便乗投稿を生んでいる。
赤城乳業の「ガリガリ君」、湖池屋の「ポテトチップス」、ヤマザキビスケットの「リッツ」など、夏に向けて売り場に並ぶ定番商品は今のところ通常通り。だが、印刷インクの先行き不透明さは業界全体で共有されている。
7〜8月に表面化、命に関わる分野へ優先配分が焦点
小嶌教授が見立てる山場は7月か8月。ナフサ由来製品の需要のうち塗料は5%にすぎず、「この5%のためにナフサの製造・流通の全体を動かしていくことは基本的に考えられない」。優先順位は当然、注射器や薬といった命に関わる分野へ向く。
経産省は4〜6カ月分のナフサを確保したと説明する。ただ、原油から精製する設備能力や中東情勢の行方は政府の手の届かない領域だ。出光興産は5月12日、製油所閉鎖の撤回を発表し、国内向け供給を「最優先」に切り替えた。エネルギー安全保障の重みが、ようやく経営判断を動かす。
ポテチの袋が白黒に変わる。ミレービスケットの大袋が消える。納豆が一部買えなくなる。一見ささやかな変化の積み重ねが、生活と石油の距離を可視化する。”石油まみれの暮らし”は決して比喩ではない。中東で起きていることは、コンビニの棚と直結している。
[文/構成 by さとう つづり]




























































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