具体的な使い方と6つの分析指標

「インスピレーション」機能の真価は、その強力なフィルタリング機能にある。ユーザーは6種類のエンゲージメント指標と3つの期間設定を組み合わせることで、目的や関心に応じた多様な角度からトレンドを深掘りできる。

エンゲージメントの種類で絞り込む6つの視点

本機能では、以下の6つの指標でパフォーマンスが高い投稿をランキング形式で表示させることが可能である。

• いいね：最も多くのユーザーから好意的な反応を得た、共感を呼びやすい投稿。
• 返信（リプライ）：活発な議論や会話が生まれた投稿。コミュニティ内での関心度が高いテーマが分かる。
• 引用：多くのユーザーが自身の意見を添えて拡散した投稿。意見表明や議論の起点となりやすい内容。
• ブックマーク：後で読み返したいと思われる有益な情報や知識が詰まった投稿。
• 共有（シェア）：Xの外部にも広めたいと思わせる魅力を持った投稿。
• 動画視聴：ユーザーを惹きつけ、没入させた動画コンテンツのトレンド。

これらの指標を、「期間・国(言語)」で切り替えることで、「なぜこの投稿は保存されたのか」「なぜこの投稿は議論を呼んだのか」といった、エンゲージメントの質の違いを分析できるのだ。

期間と国・言語フィルターで分析を深化

分析対象とする期間は、「過去24時間」「7日間」「30日間」から選択できる。これにより、瞬間的なバズから中長期的なトレンドまで、時間軸に沿った動向の追跡が可能だ。

さらに特筆すべきは、「国または言語」で絞り込む機能である。例えばフィルターを「アメリカ」に設定すると、米国で話題の投稿が表示される。ここで強力なのが、XのAI「Grok」による自動翻訳機能だ。海外の投稿テキストが自動で日本語に翻訳されて表示されるため、言語の壁を越えてグローバルなトレンドを直感的に把握できる。これは、海外の成功事例を国内のマーケティング戦略に応用する上で、非常に価値のある機能と言えるだろう。

クリエイターとビジネスにおける活用戦略

「インスピレーション」は、単にトレンドを眺めるだけのツールではない。特に生成AIと組み合わせることで、コンテンツ制作のプロセスを劇的に効率化し、その質を高める「企画エンジン」へと昇華させることができる。

投稿ネタ切れからの解放

SNS運用者が直面する最大の課題の一つが「投稿ネタの枯渇」である。専門分野について発信し続けるほど、世間の関心とのズレが生じやすくなる。「インスピレーション」で発見した世間で流行しているトピックを、自社のビジネスや専門分野に結びつける「SNS大喜利」のような発想が、この壁を打ち破る鍵となる。

AIを活用した「SNS大喜利」実践3ステップ

この創造的なプロセスは、以下の3ステップで実践できる。

1. ステップ1：本物のトレンドを発見する
   「インスピレーション」機能を使い、「いいね」や「ブックマーク」が多い投稿など、実際に人々の心を動かした投稿を発見する。
2. ステップ2：トレンド情報をデータ化する
   スクレイピングツール（Webサイトから情報を自動抽出するプログラム）などを利用し、発見した人気投稿のテキスト情報を一括で抽出し、CSVファイルなどの形式でデータ化する。これにより、AIが分析しやすい土台が整う。
3. ステップ3：AIでアイデアを生成する
   GoogleのGeminiなどの生成AIに、作成したCSVファイルを読み込ませ、まずは「このデータから投稿の傾向を5つの視点で分析して」といった指示で全体像を把握させる。次に、自社のウェブサイトURLなどを提示し、「このような商売をしている私が便乗すべきネタはありますか？」と問いかける。これにより、AIは一見無関係なトレンドと自社ビジネスとの間に、創造的な接続点を見つけ出し、具体的な投稿案を提案してくれる。

例えば、「母の日の時短料理」というバズ投稿から「技術とツールがもたらす価値」という切り口を見出し、自社のDX（デジタルトランスフォーメーション）ソリューションの訴求に繋げる、といった応用が可能になる。これは、勘や偶然に頼らない、データに基づいた戦略的なコンテンツ制作手法である。

X活用の新たなスタンダードへ

今回、全ユーザーに開放された「インスピレーション」機能は、Xの利用方法を大きく変える可能性を秘めている。単なる情報収集ツールとしてだけでなく、AIと連携させることで、個人のクリエイターから大企業のマーケティング部門まで、あらゆる層の発信活動を科学的かつ創造的に支援する強力な武器となる。

Xは近年、有料プラン「Xプレミアム」の導入やクリエイターへの広告収益分配プログラムの開始など、プラットフォーム内での経済圏構築を加速させている。今回の無料機能の拡充は、より多くのユーザーに質の高いコンテンツを制作してもらい、プラットフォーム全体の魅力を高めるという、より大きな戦略の一環とみることができるのかもしれない。

[文/構成 by MEDIA DOGS編集部]