ファン投票で紡がれる年末の夢舞台「有馬記念」

1956年12月23日、千葉県の中山競馬場にて、その年の最強馬を決める「中山グランプリ」が創設された。これが現在まで続く「有馬記念」の始まりである。当時、日本中央競馬会（JRA）の理事長であった有馬頼寧氏の発案により、プロ野球のオールスター戦をヒントに、ファン投票で出走馬を選ぶという画期的な方式が採用された。この試みは、競馬を単なる競技からファン参加型のエンターテインメントへと昇華させ、年末の風物詩としての地位を確立する礎となった。

有馬氏の急逝を受け、翌1957年からはその功績を称えて「有馬記念」と改称。以来、本レースは世代や距離の垣根を越えたスターホースたちが覇を競う「グランプリ」として、数々の伝説と感動を競馬史に刻み込んできた。本稿では、初代王者メイヂヒカリから2025年の第70回を制したミュージアムマイルまで、歴代優勝馬の全記録を振り返り、その時代背景とともに名馬たちの物語を紐解いていく。

時代を彩った伝説の名馬たち

有馬記念の歴史は、日本競馬の発展と歩みを共にしてきた。各年代で競馬ブームを牽引したスターホースたちは、この大舞台でその輝きを最大限に放ち、ファンの記憶に深く刻まれている。

1950-60年代：創設と「五冠馬」シンザンの誕生

記念すべき第1回（当時は中山グランプリ）を制したのは、1番人気に支持されたメイヂヒカリであった。同馬は菊花賞、天皇賞（春）を制した実力馬であり、このレースを最後に引退。初代王者にふさわしい有終の美を飾った。この勝利は、レースの2ヶ月余り前に亡くなった馬主・新田新作氏に捧げるものでもあり、葬儀にメイヂヒカリが参列した逸話と共に語り継がれている。

そして1965年、競馬史に燦然と輝く金字塔が打ち立てられる。前年にクラシック三冠を達成したシンザンが、有馬記念を制覇し、史上初の「五冠馬」となったのである。その圧倒的な強さは「シンザンを超えろ」という言葉を生み、後世のホースマンたちの目標となった。

1970年代：TTG時代と最強馬決定戦への昇華

1970年代に入ると、有馬記念は「最強馬決定戦」としての性格を強めていく。その象徴が、トウショウボーイ、テンポイント、グリーングラスの三強、通称「TTG」が繰り広げた死闘である。1976年は3歳（旧4歳）のトウショウボーイが制し、翌1977年にはテンポイントが雪辱を果たした。彼らのライバル関係は競馬の枠を超えて社会的な注目を集め、第一次競馬ブームを巻き起こした。

1980年代：「皇帝」と「怪物」が牽引したブーム

1984年、日本競馬に絶対的な王者が君臨する。史上初の無敗でのクラシック三冠を達成したシンボリルドルフである。同馬は1984年、1985年と有馬記念を連覇し、史上初のGⅠ7勝という偉業を達成。「皇帝」と称されたその走りは、有馬記念を「王者の証明の場」として完全に定着させた。

その皇帝がターフを去った後、新たなスターが誕生する。地方・笠松競馬から中央へ移籍してきた「芦毛の怪物」オグリキャップだ。1988年にタマモクロスとの激闘を制して有馬記念初制覇。そして、誰もが限界説を唱えた1990年、引退レースとなった有馬記念で奇跡の復活勝利を遂げた。武豊騎手を背にゴールした瞬間、競馬場を揺るがした「オグリコール」は、同馬が単なる競走馬ではなく、社会現象であったことを物語っている。この活躍は第二次競馬ブームの起爆剤となった。

1990年代：語り継がれる「奇跡」と「伝説」

オグリキャップの感動的な引退劇に続き、1990年代の有馬記念は「奇跡」の舞台となる。1993年、骨折による1年（364日）もの長期休養明けで出走したトウカイテイオーが、GI馬ビワハヤヒデを破り優勝。常識では考えられないこの勝利は「奇跡の復活」として今なお語り継がれ、有馬記念が単なる強さを競うだけでなく、感動的な物語を生み出すレースであることを証明した。