突然の訃報、人気漫画家が37歳で逝去

2025年12月22日、累計発行部数300万部を超える人気クライム・サスペンス漫画『満州アヘンスクワッド』の作画を担当する漫画家・鹿子さんが、2025年11月8日午前10時38分に脈絡膜悪性黒色腫のため亡くなっていたことが、連載誌である講談社の『週刊ヤングマガジン』編集部より発表された。

編集部は公式X（旧Twitter）アカウントなどを通じて、「鹿子先生の素晴らしいご活躍に感謝と敬意を表すると共に、心よりご冥福をお祈りいたします」との声明を発表。葬儀は関係者のみで執り行われたことも報告された。突然の知らせに、SNS上ではファンから驚きと悲しみの声が広がっている。

卓越した画力で人気作を支えた漫画家・鹿子氏の足跡と経歴

『キングダム』アシスタントから人気作家へ

鹿子さん（本名：箱石達）は1988年10月3日、岩手県奥州市に生まれた。武蔵野美術大学造形学部彫刻学科を卒業後、漫画家としての道を歩み始める。そのキャリアの中で特筆すべきは、大人気歴史漫画『キングダム』の作者である原泰久氏のもとで5年間アシスタントを務めた経験である。この期間に培われたであろう確かな画力は、後の作品で遺憾なく発揮されることとなる。

2016年、箱石達名義で『週刊ヤングジャンプ』にてラグビー漫画『フルドラム』を連載し、デビュー。その後、2020年4月からはペンネームを「鹿子」とし、原作・門馬司氏とタッグを組んで『満州アヘンスクワッド』の連載を講談社の漫画アプリ『コミックDAYS』で開始した。同作は昭和初期の満州国を舞台に、アヘンの密造に手を染める青年を描くという、その重厚なテーマとスリリングな展開でたちまち人気を獲得。2021年9月からは『週刊ヤングマガジン』本誌へ移籍し、さらに多くの読者を魅了した。鹿子さんの描く、時代の空気感や湿度まで伝わってくるような緻密でリアリティあふれる作画は、作品の大きな魅力の一つであった。

最後の瞬間まで続いた創作意欲と闘病生活

華々しい活躍の裏で、鹿子さんは病魔と闘っていた。2025年10月27日、ヤングマガジン編集部は鹿子さんの体調不良を理由に『満州アヘンスクワッド』を不定期連載へ移行すると発表。その際、鹿子さん自身もコメントを発表し、病状を明らかにしている。

「2023年夏に下された診断名は“脈絡膜悪性黒色腫”。昨年末、他臓器への転移が確認され、これまでなんとか治療と連載を両立してきましたが今回治療に専念するため不定期連載にさせて頂くという判断に至りました」

この発表からわずか2週間後の11月8日、鹿子さんは帰らぬ人となった。作品担当者によると、病気が見つかってからも「描いていた方が楽なんです」と語り、休載を挟みながらも創作活動を続けていたという。その言葉からは、漫画家としての強い情熱と、最後まで作品と向き合い続けた壮絶な生き様がうかがえる。

希少がん「脈絡膜悪性黒色腫」とは

鹿子さんの命を奪った「脈絡膜悪性黒色腫」は、眼球内の「ぶどう膜」と呼ばれる組織に発生する悪性腫瘍の一種である。国立がん研究センター希少がんセンターによると、国内での年間発症者数は50名程度と推定される、極めてまれながん（希少がん）だ。これは、日本人における年間発症率が100万人あたり0.25〜0.64人程度であることを示唆するデータとも一致する。

初期段階では自覚症状がほとんどないが、進行すると視界が欠ける、ぼやけるといった症状が現れる。治療法は腫瘍の大きさや転移の有無によって異なり、大きい場合は眼球摘出、そうでなければ重粒子線治療などの放射線治療で眼球を温存する選択肢もある。しかし、このがんは血管に富んだ組織に発生するため血行性に転移しやすく、特に肝臓への転移が多いことが知られている。鹿子さんの場合も、他臓器への転移が確認されていた。