海を渡った怪物への「賭け」佐々木麟太郎を巡るNPBドラフト、異例のサプライズ指名の舞台裏

2025年10月23日、プロ野球ドラフト会議の会場は、ある選手の指名で大きく揺れた。米スタンフォード大学に在学中のスラッガー、佐々木麟太郎内野手(20)。横浜DeNAベイスターズと福岡ソフトバンクホークスが1位で競合し、抽選の末にソフトバンクが交渉権を獲得した。入団の保証がない中での強行指名は、まさに異例の「賭け」。このサプライズ指名の背景には、何があったのだろうか。
ドラフト会議に走った衝撃
高校通算140本塁打という前人未到の記録を打ち立て、2023年のドラフトの目玉と目されながらも、NPBの道を選ばず米国の名門スタンフォード大学へ進学した佐々木麟太郎。彼の選択は「人生の可能性を広げたい」という純粋な探求心からだった。そんな彼が、日本のドラフト会議で再び主役となったのである。
多くの球団が指名を見送ると予想される中、DeNAとソフトバンクの2球団が1位指名に踏み切った瞬間、会場はどよめきに包まれた。海外の大学に在学中の日本人野手が支配下ドラフトで指名されるのは、史上初の出来事であった。
なぜ指名が可能だったのか? 異例のルールの背景
そもそも、なぜプロ志望届を提出していない米国の大学生が指名対象となったのか。その鍵は、NPB(日本野球機構)とMLB(メジャーリーグベースボール)の間で確認された新しいルール解釈にある。
佐々木選手は来年4月に21歳となり、2026年7月のMLBドラフトの指名対象となる。これに先立ち、「MLBドラフトの対象となる選手は、その約10ヶ月前に行われるNPBドラフトでも指名対象となり得る」という点が両機構間で確認されたのだ。これにより、日本の球団は佐々木選手を指名する道が開かれた。しかし、それは同時に、来夏のMLBドラフトの結果次第では、貴重な1位指名権が「空振り」に終わるリスクを伴うものだった。
次ページ:球団の覚悟:「リスクを背負ってでも」
コメントはこちら