『進撃の巨人』最終34巻、米公立学校の「禁書」に初めて記録 諫山創の作品は89件、PEN America報告で漫画の撤去が拡大

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米国の非営利団体PEN Americaが米国時間10月5日、2025-26学年度に全米の公立学校で起きた「禁書」は1万1982件で過去最多だったと発表した。諫山創の『進撃の巨人』は最終34巻が初めて記録され、諫山の作品は89件。いずれも学区ごとの撤去や閲覧制限の件数で、全米で販売が禁じられたわけではない。
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最終34巻が初めて索引入り、諫山創は「最も禁書になった作家」6位
PEN Americaは、作家と表現の自由を守る活動を続ける米国の団体だ。2021年から全米の公立学校で起きた本の撤去を集め、「学校の禁書索引(Index of School Book Bans)」として公表している。最新の報告書は米東部時間10月5日午前8時30分、日本時間では同日午後9時30分に出た。対象は2025年7月から2026年6月までの1学年度になる。
総数は1万1982件。前の学年度の6870件から約1.7倍に増え、集計を始めてから1年間で最も多い数字となった。同じ本の重複を除いた実数でも7370タイトルにのぼり、そのうち4500を超えるタイトルは索引に初めて載った本だった。本を撤去した学区は114にのぼり、2021年以降の累計は3万4000件に達する。
報告書は、2025-26学年度に初めて索引に載った作品の例として11冊を挙げた。シャーロット・ブロンテの『ジェーン・エア』、石田スイの『東京喰種トーキョーグール』と同じ一覧に、『進撃の巨人』34巻(英語版のタイトルはAttack on Titan, Volume 34)が入っている。
ただ、作品そのものが今回初めて禁書になったわけではない。PENが同じ日に公表した「最も禁書になった作家」の一覧で、諫山は89件の6位に入った。説明文には、漫画というジャンルが狙われることが増えるなかで、シリーズがこれまでも複数回の撤去を受けてきたことと、34巻が直近の学年度に初めて記録されたことが並べて書かれている。
上位10人のうち3人が日本の漫画家だった。
| 順位 | 作家 | 件数 |
|---|---|---|
| 1 | スティーヴン・キング | 312 |
| 2 | エレン・ホプキンス | 234 |
| 3 | サラ・J・マース | 196 |
| 4 | ジョディ・ピコー | 116 |
| 5 | 大久保篤 | 106 |
| 6 | 諫山創 | 89 |
| 7 | カサンドラ・クレア | 88 |
| 8 | ジョン・グリーン | 74 |
| 9 | 高橋留美子 | 63 |
| 10 | ジョージ・R・R・マーティン | 61 |
『ソウルイーター』『炎炎ノ消防隊』の大久保篤が106件で5位、『犬夜叉』『らんま1/2』の高橋留美子は63件で9位。首位は2年連続でスティーヴン・キングだった。報告書の漫画の節では、『暗殺教室』の松井優征も「最も多く禁書になった作家」に含まれると書いているが、件数は示していない。
「禁書」は全米での販売禁止ではない
ここでいう「禁書」は、学区ごとに特定の本を学校から撤去したり、閲覧を制限したりした件数を指す。同じ本が10の学区で撤去されれば10件と数える。国や州が出版や販売を禁じた件数ではない。
実際、講談社の米国法人Kodansha USAの公式サイトでは、英語版34巻が今も紙と電子の両方で案内され、全米の書店や通販サイトへの販売リンクが並ぶ。学校の図書館や教室で手に取れなくなることと、米国で本が買えなくなることは別の問題だ。
どの州のどの学区で34巻が撤去されたのかは、報告書の本文に書かれていない。撤去の理由も示されていない。
数字の読み方にも注意がいる。PENは、件数は実際より少ない「過少集計」だと断っている。学区が公表しない撤去は把握しきれず、苦情がないまま目立たず本を間引く”静かな検閲”も数に入っていない。
その一方で、テキサス州とフロリダ州の数字が大きく出る事情もある。両州では、地元の市民団体「テキサス読む自由プロジェクト」「フロリダ読む自由プロジェクト」が情報公開請求で学区の記録を集め、PENと共有してきた。PEN自身も、両州の増加には、それまで見えなかった撤去を記録できるようになった面があると認めている。
漫画が狙われる理由と、撤去を求める側の主張
報告書は、漫画とグラフィックノベルの撤去が広く起きていることを、この学年度の3つ目の流れに挙げた。PENは漫画を手に取りやすく、人気が年々高まっている本と位置づける。人気が大きく伸びたことへの反発として、撤去を求める動きが出ているという見立てだ。
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異議の多くは、性や暴力、性自認を描いた絵に向けられる。PENが問題視するのは、作品全体の流れを無視して1コマや1枚の絵だけを抜き出し、「不適切」「露骨」だと訴える手法だ。報告書はこれを「コンテキスト・ストリッピング(文脈のはぎ取り)」と呼ぶ。
シリーズ丸ごとの撤去も件数を押し上げる。大久保、諫山、高橋、松井の作品は全巻まとめて撤去されることが多く、1回の判断で20や50を超えるタイトルに影響が及ぶ例もあった。ある1冊が撤去されると同じ作家の過去作まで狙われる現象もあり、PENはこれを「緋文字(スカーレット・レター)効果」と呼び、該当する作家としてスティーヴン・キングやサラ・J・マースらと並べて、大久保と諫山の名前も挙げている。
撤去を求める側にも言い分がある。保守派の団体や共和党の政治家は、暴力や性的な描写、LGBTQ(性的少数者)を扱う本などを、学区ごとに禁書とするよう求めてきた。テキサス州のダン・パトリック副知事は2025年3月19日、のちに州法SB13となる法案が州上院の第2読会で可決されたことを受けた声明で、テキサスの親は子どもの学校図書館に、性的な内容や生徒を教化しようとする「ウォーク」(リベラルな価値観を批判的に指す言葉)の思想ではなく、教育的な内容を期待していると訴えた。生徒には学年や年齢、発達の段階に合った本が必要だとも述べている。
PENの見方は正反対だ。同団体で「読む自由」プログラムを率いるケイシー・ミーハンは、楽しみのための読書があらゆる年代で減っているなか、人気の本を取り上げるのは悲劇だと指摘。学校は物語や形式の面白さで子どもを読書に結びつけるべきなのに、多くの学校が逆のことをしていると批判した。
件数を押し上げたテキサス州法とAI
州別で最も多かったのはテキサス州の8193件で、フロリダ州の3212件を上回った。フロリダは前年度まで3年連続で最多だった州だ。2州を合わせると全体の9割を超える。
テキサスの急増の背景には、2025年に成立した州法「SB13」がある。共和党のアンジェラ・パクストン州上院議員が提出し、グレッグ・アボット知事が同年6月20日に署名、9月1日に施行された。学校図書館の本を最終的に決める権限を学区の教育委員会に移し、一定数の保護者の請願があれば、保護者が過半数を占める諮問委員会を置かなければならない。「みだら」「冒とく的」な内容を含む本なども置けない決まりだ。
PENによると、規定があいまいで守り方が分からず、違反を恐れた学区が大量に本を撤去した。全米でPENが追跡した学区の72%で、撤去の原因を州法にたどれると分析している。
AIの使い方も問題になった。テキサス読む自由プロジェクトが情報公開請求で入手した記録では、学区が相談した生成AIのチャットボットが、法的な基準でわいせつかどうかではなく、他の学区で禁書になっているという理由で撤去を繰り返し勧めていた。報告書は、テキサス州マッカレン独立学区が開示したAIへの指示文(プロンプト)も例として載せている。PENは、よく撤去される本ほどさらに撤去される”雪だるま”の流れをAIが速めると警告する。同プログラムのシニアマネジャー、フィロメナ・ポールフロンも、対応に迷った学区が本を大量に撤去しており、時には問題を悪化させるだけの粗雑なAIツールの”助け”まで借りていると語った。
フロリダでは政治家からの圧力が目立った。2025年5月、州の司法長官と教育長官がヒルズボロ郡の学区を州法違反だと非難し、教育長に州教育委員会への出席を命じた。司法長官は学区に宛てた書簡で、問題の本を露骨な性的内容を含む「ポルノ的」な資料だとし、生徒を守るよう求めている。この学区が撤去を迫られた55冊のリストはほかの学区にも広がり、2025年7月時点で10学区・少なくとも40件だった撤去は、2026年6月には18学区・少なくとも165件まで増えた。
完結から5年、『進撃の巨人』の歩みと米国での受け止め
『進撃の巨人』は、巨大な壁に囲まれた街で暮らす少年エレン・イェーガーが、人を食らう巨人との戦いに身を投じるダークファンタジーだ。2009年9月に創刊された講談社の「別冊少年マガジン」で、創刊号の2009年10月号から連載が始まった。2021年4月9日発売の5月号に最終話の第139話が載り、約11年7カ月の連載に幕を下ろした。
最終34巻は日本で2021年6月9日に発売された。単行本は2019年12月の時点で、紙と電子を合わせた全世界の累計発行部数が1億部を突破。2013年にはテレビアニメの放送も始まっている。
米国ではKodansha USAが英語版を出しており、34巻の発売は2021年10月19日。公式サイトは作品の対象年齢を「16歳以上」と表示し、ニューヨーク・タイムズのベストセラー入りした作品として紹介する。
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日本の漫画ファンにとって押さえておきたいのは、記録されたのが全米での発売禁止ではなく、一部の公立学校での撤去や閲覧制限だという点だ。性や暴力の描写から子どもを守るべきだとする保護者や州の政治家と、読む自由を奪うと訴えるPENの主張は大きく食い違う。報告書がPENの立場からまとめた集計であることも踏まえ、数字の意味を一つずつ確かめながら読む必要がある。
[文/構成 by エンタメライター 和泉ユウスケ]









































































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