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「売らない店」b8ta、日本から全店舗撤退。体験型ストアの挑戦、5年で閉幕

b8ta store渋谷

「商品を売らない店」として小売業界に新風を吹き込んだ体験型ストア「b8ta(ベータ)」が、日本から完全に姿を消す。運営会社のベータ・ジャパンが2025年9月16日、国内に残る最後の店舗である渋谷店を9月28日に閉店し、9月末までに日本事業から撤退すると正式に発表した。 2020年8月の日本上陸から約5年。最新ガジェットやユニークな商品を「買う」のではなく「体験する」場を提供し続けた未来の小売りの実験場は、多くの問いを業界に残し、静かにその幕を下ろすことになった。

「b8ta」とは何だったのか?

b8taは、2015年にシリコンバレーで生まれたベンチャー企業。そのコンセプトは極めて明快だった。「Retail as a Service(サービスとしての小売)」、略して「RaaS」と呼ばれるビジネスモデルである。これは、店舗のスペースを月額制で企業に貸し出し、商品を展示・体験させるサービスだ。まるでソフトウェアを月額で利用するように、物理的な店舗の機能をサービスとして提供する。この仕組みは、特に実店舗を持たないD2C(Direct to Consumer)ブランドやスタートアップにとって、低コストで消費者の反応を直接確かめられる貴重な場となった。

消費者にとっては、販売員から購入を勧められるプレッシャーを感じることなく、心ゆくまで商品を試せるという利点があった。気に入ればその場で購入も可能だったが、あくまで主役は「体験」。この斬新なあり方が「売らない店」というキャッチフレーズと共に話題を呼んだ。

RaaSという新たなビジネスモデル

b8taの核心は、単なる場所貸しではなかった。店内に設置されたカメラで来店客の動きを分析し、「どの商品に何秒注目したか」「何人が手に取ったか」といったデータを数値化して出店企業に提供した。これにより企業は、広告だけでは得られない生々しい顧客インサイトを得ることができた。いわば、リアル店舗そのものが、壮大なマーケティングリサーチの装置だったのである。

次ページ:撤退の背景、理想と現実のギャップ

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