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ソフトバンクG、エヌビディア全株9000億円で売却 OpenAI巨額投資へ戦略転換の背景をCFOが説明

資金の使い道:ASI実現に向けたソフトバンクGのAI戦略

最重要パートナーとしてのOpenAI

SBGは、自社のビジョンを「人工超知能(ASI)の実現」と定め、その達成に向けた最重要パートナーとしてOpenAIを位置付けている。2025年4月1日のプレスリリースでは、OpenAIを「AGI(汎用人工知能)の実現に最も近いパートナー」と評価。今回の巨額投資により、SBG(ビジョン・ファンド含む)のOpenAIへの出資比率は4%から11%へと高まる見込みだ。

この資本関係の強化は、単なる財務的な投資にとどまらない。両社は日本国内で法人向けAIサービスを提供する合弁会社「クリスタル・インテリジェンス(仮称)」の設立準備を進めるなど、事業面での連携も深めている。SBGはOpenAIの成長を資金面で支え、その技術と自社の事業基盤を組み合わせることで、AI時代のプラットフォーマーとなることを目指している。

Ampere買収とStargate構想

SBGのAI戦略はOpenAIへの投資だけではない。AIを支えるインフラ層への投資も同時に加速させている。

  • Ampere Computingの買収: 2025年3月、Armベースのサーバー向け半導体を設計する米Ampere Computingを65億ドルで買収すると発表。これにより、Armの設計能力を補完し、AI時代に不可欠な計算能力の供給体制をグループ内で強化する狙いだ。
  • Stargate Project: OpenAI、Oracleなどと連携し、米国に最大5000億ドルを投じて次世代AIデータセンターを建設する壮大な構想。SBGはこのプロジェクトで資金調達の主導的役割を担うとみられている。

このように、SBGは「モデル(OpenAI)」「インフラ(Ampere, Stargate)」「アプリケーション(クリスタル・インテリジェンス)」というAIバリューチェーンの各層に深く関与することで、AI革命の主導権を握ろうとしている。

市場の反応と専門家の見方 ― 期待と「AIバブル」懸念の交錯

アナリストの冷静な分析

今回のNVIDIA株売却について、多くの市場アナリストはSBGの公式説明通り、資金調達が主目的だと冷静に受け止めている。New Street Researchのアナリスト、Rolf Bulk氏は「NVIDIAに対する慎重・否定的なスタンスと見るべきではない」と指摘。第4四半期にOpenAIやAmpereへの投資で300億ドル以上の資金が必要になるという文脈で理解すべきだと分析する。

一方で、シンガポールのAPS Asset ManagementのWong Kok Hoi氏は、「抜け目のない投資家である孫氏が全株を売却したということは、もはや株価に楽観的ではないことを意味するに違いない」と、より懐疑的な見方を示している。

根強い「AIバブル」への警戒感

SBGの積極的なAI投資は、同社の株価を押し上げる要因となっている。AIへの期待を背景に株価はこの半年で約4倍に高騰し、投資家が参加しやすくなるよう4対1の株式分割も発表された。第2四半期決算では、OpenAIの評価益2.16兆円が寄与し、純利益は前年同期比2倍以上の2.5兆円に達した。

しかし、市場ではAI関連企業の評価額が実態を伴わずに高騰している「AIバブル」への懸念も根強い。特にOpenAIは、巨額の赤字が続いていると報じられており、その天文学的な評価額(2025年10月時点で5000億ドル)や、莫大な投資をいかにして回収するのか、その収益性には疑問符が付く。

この点について後藤CFOは、「様々な意見がある」と認めつつも、「ソフトバンクの立場としては、投資しないリスクの方が投資するリスクよりはるかに大きい」と述べ、強気の姿勢を崩していない。

「逃した魚」から戦略的資産へ ― SBGの次なる賭け

2019年のNVIDIA株売却が単なる利益確定だったとすれば、今回の売却は、AIという次なる巨大な波に乗り換えるための、極めて戦略的な資産の入れ替えと言えるだろう。かつて「逃した魚」と表現されたNVIDIA株は、今やSBGの未来を賭けた壮大な投資の原資へと姿を変えた。

SBGは、単に有望なテクノロジー企業に投資する「投資会社」から、自らが中核となり「ASIの実現」というビジョンを推進する事業主体へと、その姿を大きく変えようとしているのかもしれない。OpenAIへの巨額の賭けが、再び「逃した魚」となるのか、それとも情報革命の歴史に名を刻む一手となるのか。その成否は、SBGが今後、巨大な投資を収益に繋げ、厳しい財務規律を維持できるかにかかっている。

[文/構成 by MEDIA DOGS編集部]

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