仙台育英サッカー部・城福敬監督、これまでの経歴。選手権辞退、ラストイヤーの悲劇
見過ごされたSOS―「構造的いじめ」の実態
輝かしい実績の影で、なぜ悲劇は起きたのか。学校側の発表によれば、問題の根は深い。被害を受けた3年生部員は、1年生だった2023年春頃から、複数の同級生部員から「うざい」といった暴言や容姿を揶揄する言葉を繰り返し浴びせられていた。そして2024年には「抑うつ症状」と診断され、通院を余儀なくされる事態に陥っていた。
最初のSOSは、2024年5月に学校へ報告されていた。しかし、学校側の対応は十分とは言えず、被害を防ぐことはできなかった。そして2025年10月、再び生徒から訴えがあったことで、学校は「いじめ重大事態」として本格的な調査を開始。3年生部員53名や顧問団への聞き取り調査の結果、学校はこれを「一部の生徒の問題」ではなく、部全体に根差した「構造的いじめ」であったと結論づけた。
具体的には、部内規律の名のもとに、遅刻や無断欠席などの部内ルール違反や練習時におけるノルマ不達成に対して連帯責任での罰則が慣例化する中、その罰則の回避のために意図せずして一時期の資質・能力によって生徒間の上下関係が固定化し、特定の生徒が集団から疎外され、いじりや過剰な注意、さらに強要につながるといったことが確認できました。
学校は、顧問団の人権意識の不十分さが、この構造を見逃す一因になったと認めている。教育者として選手の成長を第一に考えてきたはずの城福監督のチームで、なぜこのような事態が見過ごされてしまったのか。その問いは重く響く。
ラストイヤーの悲劇と社会の反応
この一報に、SNSでは様々な声が上がった。「学校の責任は重い」「なぜ最初のSOSで止められなかったのか」といった厳しい批判が相次ぐ一方で、2022年に夏の甲子園で東北勢初優勝を成し遂げた同校野球部の須江航監督の「青春って、すごく密なので」という言葉を引き合いに出し、「サッカー部も須江監督の言葉から学んでほしい」といった意見も見られた。
また、多くの人が2025年夏の甲子園で起きた広陵高校(広島)野球部の暴力問題と、その後の大会途中辞退の件を想起した。俳優の谷原章介氏は情報番組で「勝ち抜いたチームの子たち、そして学校、そして加害者も被害者も余計な誹謗(ひぼう)中傷がネット上で繰り広げられないことをまず第一にしてほしい」とコメントし、過度なバッシングへの懸念を示した。スポーツにおける不祥事が発覚した際、当事者だけでなく、関係のない生徒たちにまで及ぶネット上の攻撃は、現代の新たな課題となっている。
高校スポーツが問われるもの
仙台育英サッカー部の出場辞退は、単なる一つの部の不祥事にとどまらない。勝利という目標を追求する過程で、最も守られるべき生徒一人ひとりの尊厳が、いかに脆く、見過ごされやすいものであるかを突きつけている。
学校側は「教育機関としての責任を深く自覚し、被害に遭った生徒および保護者に深くお詫び申し上げます」と謝罪し、信頼回復に努めるとしている。城福監督の16年間の指導の功績は大きい。しかし、その最後のページがこのような形で閉じられた事実は、全国の指導者、学校関係者、そしてスポーツを愛するすべての人々に対し、勝利の先にある「教育」とは何かを、改めて問いかけている。
[文/構成 by MEDIA DOGS編集部]

































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