俳優の阿部寛が、自身が主演する映画の会見で口にした「リツイートという意味が分からなかった」という素朴な疑問が、波紋を広げている。SNS全盛の現代において、この発言は単なる個人のエピソードに留まらず、多くの人々が抱える「SNS疲れ」や、情報との新しい付き合い方を象徴する出来事として受け止められている。
「無知」か、それとも「新しい賢さ」か
発言が飛び出したのは、SNSでの炎上を題材にしたサスペンス映画の完成報告会見の場だった。阿部は脚本を読んだ際の感想として「SNSを全くやってないので、ちょっと意味分からなかったんですよ。リツイートという意味が分からなかった」と正直に告白。他者の投稿を自身のフォロワーに共有する、X(旧Twitter)の基本的な機能すら知らなかったというのだ。
この告白は、共演者や会場に笑いを誘ったが、単なる「デジタル音痴」のエピソードとして片付けることはできない。現代では、SNSでの発信力やフォロワー数が個人の価値を測る指標の一つと見なされる風潮すらある。しかし、阿部のように確固たる実力とキャリアを持つ人物がSNSと無縁である事実は、「実力があればSNSは必要ない」という一つのスタイルを提示しているとも言える。彼の姿勢は、常にオンラインで「接続」していることが当たり前とされる社会への、静かなアンチテーゼのようにも映る。
加速する「SNS疲れ」とデジタルデトックスという選択
阿部のスタンスが多くの共感を呼ぶ背景には、社会全体に広がる「SNS疲れ」がある。2025年初頭の調査によれば、日本のSNSユーザーIDは9700万に達し、総人口の78.6%が何らかのSNSを利用している。この数字は、SNSが社会インフラの一部となったことを示している。
しかし、その一方で、利用者からは疲労を訴える声が絶えない。2025年に行われた調査では、SNSの悪影響として「偏った情報を見てしまう」「誤情報や偽情報が拡散し、何が真実かわからなくなる」といった回答が上位を占めた。また、「他人の幸せアピール投稿」や「知らなくていいことまで知ってしまう」ことが、精神的なストレスにつながっているという指摘も多い。
こうした状況から、近年「デジタルデトックス」という考え方が注目を集めている。意図的にスマートフォンやSNSから離れる時間を作り、心身の健康を取り戻そうという試みだ。特にZ世代の間ではこの傾向が顕著で、Pinterestでは「デジタルデトックス アイデア」といった関連ワードの検索数が急増しているという。これは、デジタルネイティブ世代でさえ、SNSとの健全な距離感を模索している根拠と言えるだろう。
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